タロット講座の教育課程で行った課題です。
生徒が毎日一枚カードを引いて出たカードから物語を連想し、リレー形式で作って行く小説です。この話の未来はタロットのみが知るという不思議なお話です。
第一回目テーマは「恋」参加生徒5名
【吊るし人 リバース】
やっとあの男から解放された。
苦しい時間が終わった。
A子は心の底から呟いた。
何度も別れを切り出したが、受け入れて貰えず、ずるずると付き合い続けた不倫関係に
終止符を打つ事が出来た。
「次こそはしっかりした未来が見える恋愛がしたい。」
そう思いA子は友人が勧めてくれた飲み会に参加する事にした。
A子は、20代後半のどこにでもいそうなOLだが、笑った時の笑顔が魅力的な女性だ。
ただここ数年はその魅力的な笑顔が出る事は少なかった。
【戦車 リバース】
ふぅ・・・
友人の勧めてくれた飲み会に参加したA子だったが
賑やかな・・・A子からしてみれば
賑やか過ぎる雰囲気に
いささか気持ちが付いていけず
8人がけのテーブルの端っこで
1人、こっそりとため息をついた
参加者は男性4人、女性4人
いわゆる 合コン というやつだ
人数合わせに呼ばれたことはわかってる
それでも、もしかしたら
素敵な出会いがあったりして・・・
と、多少の淡い期待もあったが
参加している男性陣の中に
好みのタイプはいなかった
次こそは
しっかりした未来が見える
恋愛がしたい
そう思っているはずなのに
心は、新しい一歩を踏み出すことを
躊躇していた
まぁ、、別れてから
まだ1年も経っていないし
焦ること無いよね
とりあえず今日は
飲んで、食べて、、、つまらなかったら
トイレに行くふりをして
帰ろう・・・
大丈夫
わたし、楽しんでいるフリは得意だし・・・
2杯目のお酒を飲み干すと
気持ちを切り替えて
隣で弾んでいる
友人と男性の会話に加わった
【世界リバース】
「ねぇ、A子どうだった?
誰か気になる人いた?」
飲み会を終えて、友人と2人だけのスタバ。
「………」
首を横に振るのが精一杯だった。
気分転換のつもりで参加してみたものの、気持ちが晴れるどころか疲れてしまって言葉も出ない。
明るくて社交的な自分は、もう過去のものになってしまったのだろうか…
しっかりした未来が見える恋愛なんて、夢のまた夢なのだろうか…
頭と心がバラバラになっている自分に、すっかり自信をなくしてしまっていた。
次の方どうぞ✨✨
【吊るし人 正位置】
友人と別れ、A子は何となく近くの公園に立ち寄った。
まだ帰る気になれなかった。
「おかえり」の無い自宅の静けさは、今の自分を責める声に聞こえるのだ。
A子は公園の遊具に乗ってぼーっと、過去に思いを馳せた。
馬鹿な思い出ばかりだ。
あの人が既婚者と分かっていて惹かれてしまった自分も、秘めやかな時間にただ酔いしれた自分も、罪悪感を持ちながら流され続けた自分も。
本当に甘くて弱くて愚か。
あまつさえ、またすぐに新しい良い人が見つかると期待なんかして。
「何かもう、いいや。」
どれくらい時間が経っただろうか。
ゆらゆらとブランコに揺られながら、A子はぽつり 独りごちた。
少し冷えていた。
過去は巻き戻せない。
失ったものは取り戻せない。
どれだけもがいても。
仰いだ先には見頃も過ぎて色の悪い葉桜と、星を隠す薄曇り。
A子の顔はどこか穏やかだった。
次の方お願い致します。
【太陽 リバース】
‘うーん、まぶしい’
A子は目が覚めるとベッドからゆっくりと立ち上がりベランダに近づき新鮮な空気を入れようと窓をあけ息をすった。
スーッ。
ラベンダーの香りが届いてきた私の癒し。
ふと思い出す…そういえば仲の良い同僚も結婚して家庭に落ち着いて行く
幸せそうに聞かせてくれるのは旦那さんと未来の話題ばかり
「家庭があるっていいの?」
そう聞いてみたかったけどぐっとのみ込んだ
家庭的になれるのか私は自信がない。
次の方どうぞ😌
【knight of wands】
A子はこのままでは何も変わらないと思った。
家に居ても色々ネガティブな事を考えるだけで、人とも合わないと出会いも無い。
何か始めてみよう!
そう思いたった時に、たまたまA子の友人の言葉を思い出した。
「テニススクールって、健康に良いし気分転換にもなるし、、そして、、、出会いもあるかもよ。」
A子は勿論、テニスなんか殆どやった事が無い。けど何かを変えたい。
そんな思いで、スマフォを取り出して会社帰りに寄れそうなテニススクールを探してみた。
あった!!
それはオフィスの帰りに寄れそうなテニススクール。
定期的にテニス好きが集まるイベントもあるらしい。
A子はいつも行動に移すのが遅い筈なのに、
直ぐにスマフォからスクールに電話を掛けていた。
次の方どうぞ。
【世界 正位置】
はい
◯◯テニス🎾スクールです
電話の向こうから聴こえてきたのは
少し素っ気ないけど
若々しい爽やかな男性の声だった
あのっ
テニス初心者🔰なのですが
入会できますでしょうか?!
ドキドキしながら電話した意図を伝えた
あ!
そうなんですね
初心者ということですが
テニスのご経験は?
不意にテニスの経験を尋ねられ
初心者は断られてしまうのかと
少し不安がよぎったが
自分の人生をこれから切り開くんだ
こんなことで尻込みしてはいられない
と気持ちを強く持ち直して伝えた
遊びで軽くやったことがある程度で
詳しいルールなどは知らないんですけど
自分を変える為に、テニス、始めたいんです!
思わず少し声が大きくなってA子は自分でも驚いた
そうなんですね!
そういうことなら、大歓迎ですよ!
相手の男性は
ハハハハと快活に笑い、体験入会を案内してくれた。
A子は
相手の、その飾らない素直そうな雰囲気の声にホッとした
もう
あの頃の私とは違う
新しい世界の広がりを感じて、胸が高鳴った
次の方、お願いします😊🙏✨
A子、頑張れー🥰
【恋人たち】
スパーン スパーン
ナイス〜
「A子さん、上手じゃないですか〜!その調子です〜♪」
「ホントですか〜!?ありがとうございます〜♪」
体験スクールの1時間があっという間に過ぎた。
「A子さん、センス良いですよ!すぐに上達すると思いますよ👌」
「とっても楽しかったです!わたし、入会させてください!
それから…え〜っと、
自分用のラケット買おうと思うんですけど、初心者にお勧めのラケットとかあったら教えて頂けますか?」
「わかりました!
じゃあ今度の日曜日、一緒に買いに行きましょう♪」
「わぁ〜、すみません、ありがとうございます!日曜日が楽しみです♪」
テニス選んで良かった🎾
すっかり暗くなった帰り道だったが、A子の心は明るく軽やかだった。
次の方、お願いします♪
【法王 逆】
約束の日曜日。
A子はウキウキとした気持ちで、ズラッと並んでいるラケットを眺めていた。
「初心者にお勧めはこのメーカーで…こっちは重すぎるかな、これはこういう特徴があって…」
テニス体験で対応してくれたインストラクターの男性が、色々なラケットについて教えてくれる。
A子は、休日も返上しラケット選びに付き合ってくれるこの男性に心惹かれる想いがほのかにあった。
彼は優しく落ち着きがありとても話しやすい雰囲気の好青年なのだ。
しかしこんなに良い人で独り身なんてあり得るのだろうか…。過去を繰り返すようなことは絶対にしたくない。そう思うA子は、それとなく男性に探りを入れた。
「親身になってくださってありがとうございます! でもそんなに親切にして彼女さんとかに怒られないですかー?(笑)」
「え?あはは、えーっと、何だそれ、何でそんなこと聞くの?(笑) ああ!そんなことよりテニスウェアについてもお勧めがあるんだけど…」
男性はこちらの問い掛けには明確に答えず、別の話題をペラペラと話し出した。
(はぐらかされた…?)
話を聞かない様な対応になんだか一抹の不信感を覚えるA子だった。
遅くなってすみません!
次の方お願い致します
【運命の輪 正】
すべて買い揃えたA子は
月曜日、火曜日、、、
うん。明日こそは行こうたぶん行ける、行くの!!
水曜日の夕方SNSの通知に気づいてからは退社の時間を急いだ。
「こんにちはA子さんあれからお見えになっていませんけど、どうしましたか」
「テヨン(テニススクールのコーチ)さんこんにちは最近グループレッスンで英会話を習ってるんですそれで時間がとれなくて」と勘繰りながら返信するわたし。
「これから会いませんか」
…え、どうして?もしかして興味あるのかな。
「お誘いありがとうございます今日は、、」
初めに断るのがお約束ですよね…
次の方お願い致します
【正義】
A子はテヨンからの誘いを一度断ったものの、
その後もテヨンのからの誘いに乗り、日曜日に会う事になった。
待ち合わせ場所に着くと、既にテヨンは待っていた。
「しっかりした人なんだな。。」とその時感じた。
昼のランチを一緒に済ませると、テヨンがどうしても行きたい所があると言い出した。
「まあ、私を何か驚かせたい場所があるのかな?」
と思い着いて行く事にした。
「私、あんまり知らない人の車には乗らないので〜。」
と軽く見られ無い様にお約束で言ったものの、この高級車はテニススクールのコーチのお給料だけで購入出来るレベルものか、、
テヨンの車はかなりに高級車だった。乗る事自体に緊張する程の車だ。
車の中でも、テヨンはA子に気遣い、冗談や色々な話をしてくれた。
20〜30分走らせただろうか、ある郊外に辿り着くと
そこは飾り気は無いが美しい小さな教会に辿り着いた。
次の方、どうぞ。
【世界 正位置】
テヨンが、ゆっくりと車を進めながら呟いた
「ここは、変わらないな・・・」
「え?」
思わず聞き返したが
テヨンは気に留めず、教会の傍に車を停めた。
「・・・来たかった場所って、ここなの?」
そう尋ねるとテヨンは
「・・・ん」
と、教会を見上げながら短く答えた。
屋根の上の十字架が逆光になっていて
神々しく見える。
「A子さん、こっち!」
テヨンが教会のドアを開けて待っている。
促されて中へ入ると
礼拝堂の正面には、キリストの像と、大きなステンドグラスの窓があり
荘厳な雰囲気を醸し出している。
光が降り注ぎ、床に色とりどりの光の絵画が広がっていた。
「・・・きれい」
あまりの美しさに思わずつぶやくと
テヨンが嬉しそうに微笑んだ。
「ところで、テヨンさん・・・ここって?」
なぜこの教会に来たのか
どうしても気になって、思い切って尋ねてみた。
「ここは、僕が育った場所なんだ」
「え!」
全く想定していなかった答えに
A子は驚きを隠すことができなかった。
テヨンは、生まれて間もなく、日系二世だった両親が事故で亡くなり
身寄りもなかったため、この教会に併設されている孤児院で育ったそうだ。
牧師夫妻はとても大らかで優しく
子どもたちを実の子どものように分け隔てなくのびのびと育ててくれた。
テヨンは、そんな牧師夫妻や、
一緒に育った仲間たちに恩返しがしたくて、
得意だったプログラミングで高校生の時に起業し
現在は2つの会社の代表取締役なのだそうだ。
どうりであの高級車・・・
テニスクラブのコーチは
友人に誘われて半分趣味でやっているとのこと。
思わぬ身の上話しに聴き入ってしまったが
なぜそこまでプライベートな話しをしてくれるのか・・・
(・・・自惚れかもしれないけど、私に気があるのかな・・・)
「テヨンさん、どうして私に、そんなプライベートなこと、お話ししてくださるんですか?」
いつぞやのように、はぐらかされないようにしっかりと目を見て尋ねてみた。
「・・・実は・・・あなたのことを
好きになってしまって・・・。」
顔を赤くしながらそう言ったテヨンは
普段の余裕ある女性慣れしたテニスコーチや
2つの会社の代表取締役というバリバリの仕事人間ではなく
ピュアで生真面目な、ただの青年だった。
「こんな風に告白するつもりじゃなく、もっとこう、スマートに伝えるつもりだったのに、、クソ」
動揺してますます真っ赤になるテヨン。
つられてA子も茹でダコのように耳まで真っ赤になってしまった。
「こ、この間、2人で買い物に行った時に、彼女さんとかいないのかお尋ねしたら、話しをはぐらかしましたよね?!」
気になっていたことも、思い切って聞いてみた。
「それは・・・」
テヨンは、観念したように話し出した。
2つの会社も軌道に乗り、何もかも順調だった。
でも、心にぽっかりと穴が空いているように満たされないものがあり
それを埋めるように
複数の女性と付き合っていたそうなのだ。
「えええ!」
思わず声が漏れた。
「でも、、A子さんと出会ってから、どんどん惹かれていったんだ。
だから、他の女性たちとはキッパリと別れた。」
テヨンはそう言うと、真っ直ぐA子を見た。
「A子さん、知り合ってから
まだ間もないけど、好きになってしまいました。
どうか、僕とお付き合いして頂けませんか?」
教会の祭壇の前で
A子はテヨンから交際を申し込まれた。
テヨンは跪き、それはまるで
プロポーズのようだった。
「は・・・はい!」
テヨンの迫力と曇りなき眼に圧倒され
A子は交際を受け入れた。
つづく
長くなってしまいましたー😆💦🙇🏻♀️
次の方、よろしくお願いいたします✨
【力 逆位置】
教会からの帰りの道は、幸福感に満たされ夢のような時間だった。
テヨンは行きにも増しておしゃべりだった。
「A子さん、僕は今まで、自分が結婚する未来なんて考えた事も無かったけど、今はそれが凄く近い未来に感じられるんだ」
A子はテヨンの言葉を夢見心地で聞いていた。
そしてその日から2人の仲は一気に深まり、週末は必ずテヨンと行動を共にするようになっていった。
テヨンは自分の事をA子に知って欲しい一心で、ある時はテニス仲間の集まりにA子を連れて行き、またある時は仕事の打ち上げパーティーにA子を同伴した。
どの場所でも、テヨンはキラキラと輝くスターの様な存在で、A子は自分なんかが側にいても良いのだろうか?と不安が募っていくのを感じていた。
(私なんかじゃテヨンさんとは不釣合いに思えてきた…)
(こんな素敵な夢のような時間、目が覚めたら消えてしまうんじゃないかしら…)
A子は日に日に自信をなくしていくのだった。
つづく
前回のハッピーエンドで終わりたかった感強いけど続けました💦
次の方、お願いします✨
【皇帝 正位置】
A子とテヨンが交際を始めてから約半年が経った。
A子は未だに、自分なんかが彼と付き合っていて良いのだろうかと些か後ろ向きな考えを捨てられずにいた。
平日の会社帰り。
「今日は疲れちゃったからデパ地下のお惣菜で晩酌しよう♪」
A子が唐揚げや缶ビールを袋に持ちブラブラとビル街を歩いていると、道向かいに止まるいかにも高級そうな車に目が止まった。
そこはテヨンが代表取締役を務めている会社だった。
運転手に促されピカピカに磨かれた車から降りてきたのは
「テヨンさんだ…!」
声を掛けようとしたA子だったが、ふと我に帰り立ち止まった。
いつも週末に会う時には目一杯におしゃれをするのだが、今は会社帰りのくたびれ姿に唐揚げとビールだ。
彼は見るからに仕立ての良い上質なスーツに身を包み、ピンと背筋を伸ばした後ろ姿に威厳すら感じる。
大変な生い立ちにも関わらず、負けず腐らず、若くして代表取締役を勤めているのだから本当にすごいなあ。
…改めて尊敬する!
そうだ、私も自分を変えようって思ってじゃないか。
もしA子がテヨンと出会う以前のメンタリティのままなら、自分を比較してただ落ち込むだけだったかもしれない。でもテヨンの堂々とした姿に、彼女も知らず鼓舞されているのだった。
次の方お願い致します🤲
【運命の輪 リバース】
会社帰りのA子=秋子は、オフィス街のテヨンの会社のビル前を見ながら帰るのが日課になっていた。
そしてピカピカの高級車を見ると、今でも付き合っている事が信じられないテヨンがこの会社にいる事を感じられるので、会社帰りの密かな楽しみになっていた。
ある日、いつもの通りにテヨンの会社のあるビルの前を通ると、高級車からテヨンが降りて来た。
「今日は声を掛けてみようかな。。」
と思い、車に近寄ろうとすると、中からテヨンと一緒に綺麗な女性が降りて来た。
その女性は、秋子を不安にさせる程、女性的魅力に溢れていた。
思わず足がとまり、そのまま会社に入って行くテヨンと女性を遠目で見てるだけで、
声を掛ける事が出来なかった。
その日の夜に、モヤモヤして部屋に籠っていると、テヨンからlineが来た。
「今度の日曜日に映画でもどう?」
OKの返事のスタンプをしたもののそれ以上の言葉が出ない。
あの美しい女性の存在が何故か秋子の心を騒つかせるのであった。
次の方どうぞ。
【恋人たち 正位置】
思いの外、映画は楽しめた。
先日、テヨンと一緒に車から降りてきた女性のことが気になって
楽しめないのでは?と思っていたが
テヨンの温かい心遣いが
不安を払拭してくれた
映画の前には飲み物やポップコーンを用意してくれ
ほぼ個室のバルコニー席を取っていてくれたのだ
笑いあり涙あり
コメディタッチの冒険ファンタジーで
周囲を気にせず
2人で声をあげて笑い合った
こんなに贅沢に映画を楽しんだのは初めてだった
映画が終わってエンドロールが流れ出したが
2人とも席を立とうとしなかった
秋子はチラリとテヨンを見ると
テヨンも秋子を見ていた
「もしかして、秋子さんもエンドロールまで観る派?」
「テヨンさんも?!」
『良かったー!』
2人で同時にハモって
それが可笑しくてアハハと笑い合った
なんとなく目があって
そのまま
2人は唇を重ねた
優しいキスだった
そして秋子を見つめるテヨンの目は
とても優しく真っ直ぐだった
秋子は
(あぁ、、あの美人さんが、テヨンさんとどう言う関係なのかなんて
もう、どうでもいいや)
(わたしが、テヨンさんを好き
それだけで、いいや)
なんだか
気持ちが満たされて
心からそう思うことができた。
映画館から出ると
すっかり陽が落ちて暗くなっていた
ライトアップされている桜の花びらが白く輝いて
なんだか幻想的だ
「なんだかお腹空かない?
お酒の美味しい店を予約してあるんだ。」
そう言ってテヨンは
さりげなく秋子の手を引いた
大きくて温かいテヨンの手に包まれて
秋子は
(そうよ。
わたしは、この人に選ばれたんだから
自信を持って、堂々と
この人を好きでいよう)
改めて心からそう思った。
次の方
よろしくお願いします😊✨
【法皇 逆】
秋子は、もっと自分に自信が持てるようになりたいと考えるようになっていた。
≪回想シーン≫
「秋子ちゃん、大きくなったら何になるの?
看護師さん?それとも学校の先生かな?」
「う〜ん、よくわかんない」
子供の頃は、周りの大人たちに聞かれるたびに、そんな風に答えていた。
将来、自分が何になりたいか?自分は何をしたいのか?本当によく分からないまま過ごしていたのだ。
学校の成績は良かったので就職先も特に困らず、いくつか受かった中から小さな商社を選んだ。選んだ理由は周りから勧められたからで、それが1番良い選択だと考えていた。
商社の事務職は、仕事を覚えてしまえば特に苦労も無く楽しかったが、同僚たちが次々に寿退社していくと、結婚の予定が無い秋子はだんだん居づらくなってしまい、1年前に今のアパレルデザイン事務所に転職したのだった。
(いつか私も自分でデザインしてみたいな〜)
そんな淡い夢も、ハードな仕事に慣れるのに精一杯で、いつしか忘れてしまっていたのだが…
(テヨンさんみたいに、私も何か自信を持てるような仕事をしたいな…)
(デザイナーに憧れてた気持ち、表に出してみようかな…)
そんなことを考えるようになって行った。
秋子:「課長、ご相談があります!」
課長:「まったくもう、新作発表会の締切り間近で忙しいんだから!聞いてる暇なんか無いの分かるでしょ?」
つっけんどんで取り付く島もない。
(アパレルデザイン業界は年中忙しいんだから、いつだって暇なんか無いじゃない)
(課長は部下の話なんて聞く気が無いだけよね)
(そうだ!仕事にするかどうかは置いておいて、自分が着たい服をデザインするところから始めてみよう!)
その日から、デザイン画を描くのが秋子の日課になっていった。
次の方お願いします✨
【正義 正位置】
最近、秋子は良い感じだった。
テヨンにも触発され、仕事へのモチベーションが上がり、先の新作発表会に日々を忙殺されつつも冷静に乗り切った。
そして個人的に取り組んでいるデザイン画製作は欠かさなかった。
次の発表会に向け束の間一息ついていたとき、秋子は課長に声を掛けられた。
課長「秋子ちゃん、これ、昨日提出してもらった資料ファイルに挟まってたんだけど」
それは秋子のデザイン画だった。
(あっ…!私のだ!いけない、紛れ込んでしまったんだ。3枚も…。)
秋子「も、申し訳ありません!うっかりしていました!」
課長「あなたが描いたの?」
秋子「実は…日課にしていまして…個人的に。すみません、勉強にもなるので…家で描いたり、ノルマが終わってから製作しています。」
課長は何だか厳しい顔で、長いことデザイン画を眺めていた。秋子はその様子を、冷や汗を垂らしながらただ眺めるしかなかった。
課長「ふうん、結構面白いじゃない?まだ粗いけど、この襟のデザインとか…ドレープがいいわね」
「ひえっ…!?」
普段厳しい課長がまさか自分のデザインに興味を示すとは。そんなこと夢にも思わなかった秋子は、拍子抜けするあまり思わず変な声を出していた。
課長「あなた今度の新作ミニコンペの案、作ってみる?最終審査まで持って行けるか分からないけど。」
秋子「わ…‼︎ 有難うございます!是非やらせてください!わ、私、実はデザイナーになるのが夢で!先日お声掛けしたのはそのことでご相談させていただきたくてですね!」
秋子は思いの丈をぶつけた。
課長「いいわよ。ミニコンペで採用されたら、次の新作発表会のデザインも正式に任せてあげる。ただし、ちゃんと良いものが作れたらよ!」
秋子「ありがとうございます‼︎ 精一杯頑張ります‼︎」
次の方お願い致します🤲
【太陽 正位置】
なんとデザインコンペで秋子のデザインが最終審査を通過し採用されたのだ。
それ以来、課長が手のひらを返したかの様に、ニコニコと秋子に接して来る。
「いやあ〜、秋ちゃんは才能があると思っていたよー。」
あれ程、厳しく接して来た課長の態度の変わり様に戸惑ってしまうが、
悪い気はしない。
コンペ通過依頼、噂を聞きつけたデザイン会社から依頼も舞い込み、
課長には内緒にしていたが、他社でもっと条件の良い契約での専属デザイナーの話も舞い込んだ。
その中の一社かなり良い条件だったので、内緒で会ってみる事にした。
会社から少し離れた落ち着いた喫茶店での待ち合わせ。
そこに現れたのは、、なんと!テヨンに同伴していた女性だった。
名刺を見ると、最初は分からなかったが、どうもテヨンがオーナーを勤める会社の一つであった!!
驚いた!!
これは秋子の実力なのか、それとも秋子は知らないと思っているテヨンの良かれと思うお節介なのか、。
まさか難関コンペ通過の通過もテヨンの差し金だったとしたら。。
次の方、どうぞ。
◉塔 逆位置
その女性は
金田 華代(カネダ ハナヨ)さんと名乗った。
テヨンの会社の副社長だった。
一瞬のうちに
さまざまな想像が脳裏をよぎった。
デザインが採用されたのは
とても嬉しい
でも、もしもそれが
テヨンの口添えによるものだったら・・・?!
ゴクリ
秋子は唾を飲み込むと
思い切って金田華代に尋ねた。
「あの・・・金田さん、つかぬことを伺いますが・・・
実はわたし、御社の代表のテヨンさんと親しくさせて頂いています。
まさか、金田さんが、テヨンさんの会社の方だとは思いませんでした。」
金田は、目を見張り
「あら!そうなんですか?!
それはまぁ、なんというご縁なのかしら!!」
と、顔を紅潮させてはしゃぎ出した。
落ち着いて話を聞くと
どうやらテヨンは、金田が秋子をヘッドハンティングすることは知らないらしい。
金田は
「うふふふ!よーし。秋子さん
そいういことなら、この話しを進めていいかしら?
あなたのデザイン、この後直ぐにテヨンに見てもらうわ!」
と、かなり乗り気だ。
きっとこの会社なら生き甲斐を感じながら働けると思う。
私情を挟まずに
1社員として雇ってもらおう!
その前にテヨンにも相談させて欲しいと金田には伝えて帰宅した。
そして
今の会社への辞表を作成した。
辞める。
今の会社をやっと、辞めるんだ!
テヨンの会社で0
からスタートだ!
期待とほんの少し不安の入り混じった気持ちで
テヨンに電話をかけた。
次の方、よろしくお願いします😆🙏
長くなっちゃってすみません🙇🏻♀️
【法皇 逆位置】
「テヨンさん、先日、金田さんにお会いしたわ♪
金田さん、とっても素敵な方ね〜!
お綺麗な上に仕事も出来て、同性でも憧れちゃうわ♪
ところで、金田さんから聞いてると思うけど、わたし。。」
テヨンに会った瞬間、秋子はテンション高く話し始めた。
「あぁ、聞いてるよ。あのね秋子さん。。」
テヨンの言葉はなぜか浮かない調子に感じる。
(あれ?なんか変かも。。)
秋子は一瞬身構えた。
「秋子さんのデザイン画、見せてもらった。とても素敵だったよ!だけど。。」
「だけど。。。何?」
秋子の心は一気に不安でいっぱいになっていた。
「秋子さんが僕の会社で部下になるなんて、なんかイヤな感じじゃない?」
テヨンいわく、秋子と上司と部下の関係になるのは気が進まないのだそうだ。
一方、今の会社でも秋子の立場は危うくなってきていた。
秋子が他の会社の面接を受けたとか、ヘッドハンティングされたとか、色んな噂が飛び交っていたのだ。
課長:「秋ちゃん、私の耳にも入ってるけど。。
転職かんがえてるの?」
秋子:「あっ、あの…まだハッキリ決めたわけじゃないんです。。すみません。」
課長:「私が推薦しなかったらコンペには出られなかったのよね?」
秋子:「はい、課長が私の拙いデザイン画を、コンペに応募出来るまでに指導して下さったお陰です。入賞出来るなんて夢にも。。」
課長:「まぁいいわ。あなたの代わりはいくらでも居るんだ、か、ら!」
課長に突き放されてしまった。
テヨンは秋子の話に耳を傾けてくれないし、デザイナーはクビになりそうだし。。
どうなる!?秋子。。
次の方お願い致します🤲
リレー小説
【審判 正位置】
あれから2週間、作成した辞表はまだ提出出来ずにいる。
以前転職のことをテヨンに話した際に難色を示されたまま有耶無耶に話が終わったからだ。
金田さんにもまだ正式なお返事をするのを待ってもらっているのに。
その後、当のテヨンはというと数日出張で不在だという。
社長業は忙しいのだ。
理解してはいるが…
「あんなに後ろ向きなリアクションをされるとは思ってなかったなぁ。はあ…」
どうしたものか。コンペでは頑張って良い結果が出せたのに。どのみち今の会社は微妙に居づらくなってしまった。自分への課長の風あたりも強くなったし。
とにかく何でも良いから環境を変えたいと、秋子は切に願っていた。
週末、秋子はどうにもモヤモヤした気持ちを拭いたくて教会に行くことにした。
テヨンとの思い出が詰まった教会だ。
あの場所はいい。
とても心が落ち着く。
「わぁ…」
何度足を運んでみても、この教会のステンドグラスの窓から差し込む鮮やかな光にはため息が出る。
今日はちょうど誰も人が居なくてラッキーだった。秋子はひとり、床に落ちる幻想的な色彩を静かに浴びていた。
目を瞑れば、あの日の光景が瞼に浮かぶ。
テヨンに告白をされた日の、純粋でくすぐったい気持ちが思い出される。
なにしろ最近会えていないのだ。
秋子はただ会いたいと呟いていた。
ふと、窓に彩られた赤い翼の美しい天使と目が合った。
『秋子さん』
ーえっ?幻聴?!
私ってばそんなにストレスを… と秋子は慌てたが、どうやら声のする方向が違うようだ。
キョロキョロと辺りを見渡すと、後方の入り口に件の想い人が立っていた。
「テヨンさん!何で?出張は?!」
えっまさか幻聴に続いて幻覚を?などと取り乱す秋子の様子に苦笑しながら、テヨンが小走りに近づいてきた。
「言ってなかったっけ?今朝戻ったんだ。近くを通るんで寄り道したら、秋子さんがいるんだから僕の方が驚いたよ!」
テヨンは秋子をハグしながらニコニコと嬉しそうにしている。
「今日は人がいないんだね。ちょうど良かった。秋子さん、聞いてほしい事があるんだ。」
テヨンは話す。
秋子の転職の話に良いリアクションが出来なかったことへの謝罪、秋子の才能への称賛、出張中のこと。
「僕は秋子さんの気持ちを考えていなかったね。自分の事ばかりだった。あんなに嬉しそうに知らせてくれたのに。」
心からすまなそうにしているテヨンに、秋子の心はすっかり穏やかに戻っていた。
テヨンは続ける。
「それでね、出張先で良い話があったんだ。」
諸々端折るがその話によると、彼が行った出張先のとある会社では、新しい時代のファッション誌を作るプロジェクトを進めていて、専属のデザイナーズチームも立ち上げるそう。
そこで斬新な感性を持った人材を推薦してほしいと相談されたのだとか。
そしてテヨンはそのチームに秋子を推薦したいのだと言う。
「えー!それは嬉しい!けど…!」
秋子の心中を察したのか、テヨンは急に真面目な顔になり、また続けて話した。
「大丈夫、とても条件の良い会社だよ。部署の人たちも皆んな気さくだし。金田には僕から話しておくよ。急だったね、ごめん。でも僕の部下にはなってほしくないんだ。」
真っ直ぐに向き合う。
秋子はいつになく真剣な眼差しにドキリとした。
「秋子さん…部下じゃなくて、僕の奥さんになってよ」
結婚してください。
そう言いながら、テヨンは秋子に跪く。あの日のように。
ポケットから取り出されたその指輪は、ステンドグラスからこぼれ落ちる光を受けて、キラキラと秋子の大きな瞳を照らした。
午後を知らせる鐘の音が、あたりに鳴り響いた。
長くなりすみません🙏
終わらせるか迷いましたが続いても良いかもしれません…!
次の方お願いいたします🤲
【魔術師 正位置】
そして結婚式の当日を迎えた。
結婚式の場は勿論、質素だけど2人にとって思い出深いこの教会。
2人は極親しき人達、そして秋子とテヨンの親族が方々が見守る中、
誓いのキスをした。
そして午後の披露宴は某高級ホテルの最も大きなホールを借りての豪華なもの。
持ち合わせがあまり無い秋子を気遣いほぼ全てテヨンが費用を出してくれていた。
申し訳無いと思ったが、これだけの豪華な披露宴は秋子の貯蓄では流石に厳しかった。
披露宴は順調に進み、あのイヤミな上司が秋子をベタ褒めしてスピーチするのを微笑ましく思いながら秋子は聞いていた。
隣にはテヨンがいる。
結婚、仕事、全てが順調である。
何もかもが幸せの絶頂にいた。
ーーーーーーーーーー
そして、、、
「秋子さん、ヒーリングが終わりました。」
奄美のユタの円聖修が話しかけて来た。
「あ、、っ、、」
状況が分かる事になるには時間が掛かったが、
秋子は円聖修からのヒーリングの途中で寝てしまい、、
これは全て夢だったのだ。。
落胆する秋子を他所目に、円先生は何かを描いていた。
そして、、
円先生が呟きながら言った。
「普段、私は未来のお相手について聞かれても、その人の未来の可能性が限定される事を避ける為、具体的には告げ無いのですが、秋子さんの守護霊様がどうしても伝えて欲しいと言われるので、絵で描かせて頂きました。」
そして徐に秋子にその絵を見せた。
秋子は驚き、、言葉が出ず、、泣き出した。
その絵に描かれていたのは、
テヨンだった。
お終い
第二回テーマ「サスペンス」参加者3名
第二回目となり、生徒さんも文章レベルがどんどんと高くなりハードルが上がってしまったようです。途中二名の生徒さんが私事情で抜ける事になり休憩タイムかと思いきや、小説に覚醒してしまった一名の生徒さんの希望で途中から一名リレーとなりました。かなり気合の入った作品となりましたので是非ご覧ください。
【🌕月🌕リバース】
幼馴染のトモキが失踪して3ヶ月。
LINEは未読のまま。
電話をしても繋がらない。
俺はコージ。
25歳のサラリーマン。
普通の家庭に育ち、普通に就職して
普通に生活している。
特に不満は無い。
かと言って、生きる希望に満ち溢れているとか
そんなリア充という訳でもない。
いわゆる モブ だ。
2年前に彼女と別れたあとは恋愛からも遠ざかっている。
友だちは多いわけじゃないけど、まぁ、恵まれている。
特に幼稚園から一緒に遊んでたトモキは何かと気があって
大人になってからも週に一度は遊ぶ親友だ。
そんなトモキとある日突然連絡がつかなくなった。
トモキの実家に連絡すると、両親も心配して警察に相談していた。
俺とトモキはお互い実家を離れて、東京のそう遠くない場所にそれぞれ部屋を借りて一人暮らししていた。
ある日、トモキの両親に頼まれて、トモキの部屋を見に行った。
管理人から鍵を借りて、トモキの部屋のドアを開けた。
主を失った部屋は
シン・・・として、空気が澱んでいた。
「おじゃまします・・・。勝手に入ってごめんな・・・」
心の中でトモキにわびた。
ワンルームの部屋は、
トモキが好きだったゲームの雑誌や異世界もののノベルやマンガで埋め尽くされていた。
「相変わらず散らかってるな・・・。
どこに行っちまったんだよ・・・トモキ・・・」
ふと、デスクの上を見ると
キーボードの上に何かメモが置いてある。
『ネリヤカナヤ 奄美 ユタ』
(奄美?ユタ?)
トモキとは長い付き合いだったけど
奄美とかユタとか
そういうキーワードは聞いたことは無かった。
何なんだろう?
トモキの失踪と何か関係があるのか?
気になってすぐにスマホで検索した。
奄美とは鹿児島県の南にある南西諸島。
ユタとは、奄美や沖縄の、いわゆる霊媒師の事らしい。
ネリヤカナヤは、奄美の方言で『海の彼方の楽園』という意味らしい。
ガタッ
背後で突然音がして
思わず声をあげて飛び上がるほど驚いた。
見てみると、本棚から1冊の本が落ちている。
手に取ると
『奄美三少年 ユタへの道』
という本だった。
(トモキのやつ、、俺の知らないところで奄美に興味を持っていたのか?
失踪と何か、、関係があるのか?)
キーワードは、おそらく【奄美】
(関係あるかどうかわからないけど、調べてみるか・・・)
何の手がかりも無かったトモキの失踪。
暗闇の中に一筋の道が浮かび上がってきた。
俺は、本棚から落ちたその本を
持ち帰って読んでみることにした。
【ソードの3 正位置】
トモキの家を出て、先ずはトモキの実家に報告の連絡を入れた。
トモキのお母さんも、奄美とかユタとか聞いたことも無いと言っていた。
そうか。。家族にも言ってないのか。。
だけど、親友の俺にさえも、なんで何にも言わずに居なくなっちゃうんだよ。。
誰よりも仲良かったはずだよな!
それとも親友じゃ無かったとでも言うのか?!
もう二度と会えないなんてこと無いよな???
コージは何故だか無性に悔しくなってきて、なんだか情けなくなってきて、涙がこぼれた。
大人になって、こんな切ない想いするなんて。。
(トモキのバカやろーーーーー)
コージは心の中で叫んだ。
(俺に何も相談してくれなかった事は悲しいけど、それでも、事件とかに巻き込まれて無ければ、それでいいよ。早く帰ってきてくれよ。。)
心の中で祈りながら、帰りの電車に乗り込んだ。
(とりあえずは、トモキの部屋から持ち出してきたこの本、『奄美三少年 ユタへの道』を読んでみよう。。)
「アーッ!やっちまった。。」
少しだけ読むつもりが引き込まれてしまい、乗り継ぎ駅を越してしまっていたのだ。
(こんなにヤバイ本だとは。。)
トモキの失踪は、絶対この本と関係がある!!
そう確信したコージだった。
【戦車 正位置】
トモキは何をしているのか。無事だろうか。トモキの失踪から数日、何をするにもコージはそのことばかりを考えていた。
今のように、一人暮らしの部屋にいると余計に考えてしまう。
事件性があるかどうか別としても、こういうことは普通、警察に任せるしかないのだと頭では分かっている。トモキの無事を祈りつつ自分は自分の仕事なり、やるべき事をやるしかないのだ。
頭では分かっちゃいるが…
あいつは無計画で無鉄砲なヤツではない。突然居なくなったら周りに心配を掛けてしまう と気を回せる良いヤツだ。
それだけに、余計にソワソワしてしまう。
トモキの事で頭がいっぱいで、この前なんて同僚からの合コンの誘いも断っちまった。
「トモキのやつ、帰ってきたら一週間メシ奢らせてやる!」
コージが頭の中で絡まる思考と葛藤しながら勢い良く立ち上がると、反動でデスクから例の本が落ちた。
奄美三少年 ユタへの道…
そうだ、トモキは帰ってくる。絶対に。
奄美に居るんだ、きっと。違いない。
俺の直感がそう言ってる。
コージはぐるぐると考えることを止めた。
そして確信を持って、まるで何者かに動かされるように飛行機のチケットを予約した。
仕事はまあ、今は繁忙期でもないし、俺なんてモブだから代わりになるやつはいくらでもいるし。トモキの方が大事だな。有給を使おう。
何故だかコージに先程までの迷いは無かった。
よし、行くぞ!
いざ奄美!
開けた窓から入るそよ風が、床に落ちた本の頁をめくり続けた。
パラパラと…
【女教皇 正位置】
青・・・!!
奄美空港に降り立った際の第一印象は
青 だった
飛行機の窓から見えた海
そして新緑たぎる力強い山々
(島だから海はすごいだろうと思っていたけど
山もすごいんだな・・・)
さすがは世界自然遺産になっただけのことはある
その迫力にコージは圧倒された
5月半ば
奄美大島は思ったよりも涼しかった
梅雨に入る前の、束の間の好条件の天気なのだと
空港から名瀬へ向かうバスの運転手さんが教えてくれた
奄美大島の中心街、名瀬まではバスで約50分
これからどうするか考えるにはちょうど良い時間だ
ふと、あの本のことが頭に浮かび
カバンから取り出した。
表紙の写真では
海岸で白装束の男性ふたりが
海に向かって祈っている
今のこの青い空や海とは裏腹に
厚い雲に覆われた空に仄暗い海
(まるで奄美大島の陰と陽だな)
そんなことを思った。
30ページほど読み進めたところで
スマホにLINEの通知があった。
なんとトモキからだった
『来るな』
たったの3文字。
バスの中だというのにコージは思わずそのままLINEの通話ボタンを押していた
呼び出し音を聞いている間、
生きているという安堵感と喜びと
3か月もの間音信不通だったことへの怒りとが入り混じり
胃から苦いものが込み上げてきた。
(たのむ!トモキ・・出てくれ!)
祈るような気持ちで呼び出し音を聞いていたが
8回目の呼び出し音を聞いたときトモキが電話に出た
「・・・コージ」
声に力が無かったが確かにトモキの声だ。
「トモキ!トモキか?!
今どこにいるんだ?!お前、元気なのか?!」
つい矢継ぎ早に言葉をかけた。
「・・・コージ、俺は大丈夫だから来るな。
来るなよ、奄美大島に」
釘を刺されたが、もう手遅れだ。
「もう来てんだよ!今、名瀬に向かうバスの中だ!」
「・・・・!!」
スマホの向こう側でトモキが驚愕しているのがわかった。
「・・・わかったよ・・・。終点で待ってる」
なんと、、、想定外にこんなにもアッサリとトモキと連絡がついてコージは力が抜けた。
今まで心配した時間を返して欲しい。
(とりあえず、会えたら一発殴ろう)
深いため息をついてバスの座席に座り直した。
(トモキは来るなと言ったが
やっぱり、直感に従って奄美大島に来て良かった・・・)
ホッとして車窓から景色を眺めていると
海の向こうに真っ黒い雨雲が立ち込めていた。
後ろの席の乗客がポツリと
「あー、これは降るな」
と呟いた。
【ペンタクル10 逆位置】
空港から名瀬市街に向かう道にはトンネルがいくつもあって、2つ目のトンネルを抜けると、そこはバケツの水をひっくり返したような大雨だった
ドドドドーッという雨の音で、バスのエンジン音さえかき消されてしまっている
もしや、バスの屋根が抜けるんじゃ無いか?と思うほどの豪雨だった
あ〜あ、ツイてない
さっきまで、あんなにピーカンだったのに。。
持ってきた折り畳み傘じゃあ、ずぶ濡れだな。。
おっと、もう直ぐ終点だ
トモキのやつホントに待っててくれるのかな。。
最後のトンネルを抜けると、そこはもう奄美大島の中心地、名瀬
えっ?
雨は?
さっきまでとは打って変わって、名瀬の空はピーカンで、さわやかな風が吹く5月の晴天だった
ウヒャー、 たまげた!
これがスコールってヤツか〜
やっぱ奄美は南国なんだな〜
間も無く終点を知らせるアナウンスが流れ、バスは無事、名瀬の街に着いた
想い人トモキは終点のバス停に、Tシャツ短パンにビーサン姿で立っている
少し痩せたのか、日焼けして締まって見えるのか、どことなく雰囲気が変わって見える
「心配したよ」
一発殴ってやろうと思った気持ちは何処へやら、コージはやっぱり、親友に会えて嬉しかった
「すまん。。」
トモキはバツが悪そうにしている
そしてポツポツと、これまでの経緯を話し始めた
トモキの夢はクリエイターになる事だった。
デザインを学び、念願のゲーム制作会社に就職したまでは良かった。
いつか、世界中のゲーマーを夢中にさせるゲームを開発するのを目標に、毎日、家と会社を往復する生活。
納期に迫られ徹夜する事は、日常茶飯事だった。
そんな会社員生活にも慣れて3年が経ったある日、
ふと、なんとも言えない焦燥感に襲われて眠れない日々が続いた。
自分はいったい誰なんだ?
何のために生まれてきたんだ?
毎日、同じことの繰り返しばかり、こんなことでいいのか?
考えれば考えるほど、眠れなくなっていく。
そして気がついたら、奄美に来ていた。
トモキは、そこまで話してから、
ハハハ。。
と力なく笑った
【月 逆位置】
「本当に、何のために生きているのか分からなくなってしまったんだ。自分が本当に求めていることが…。」
トモキは、自分の人生のモラトリアム期について自嘲気味に打ち明けた。
コージにも何となくその気持ちは共感するところはあった。
「その、気持ちはまあ 分かる気はするよ。だからって何で奄美に来たんだ…?」
コージの問い掛けに、トモキは一瞬のためらいを見せた後、淡々とこう語った。
「自問自答する毎日だった。そうしたらある夜、夢を見たんだ。ぼんやりとした姿だったが、全身白い服を着た男が出てきた。ユタ…と名乗ってた。それから、その男が俺に、”あの島へ行け”と言ったんだ。最初は何のことかさっぱり分からなかったんだけどさ。」
トモキは ふぅ と一呼吸つくと、また続けて話した。
「その次の日もまた不思議な夢を見た。俺は、どこかの海辺に立っていた。来たことも見たことも無い場所なのに、何故だか知っている気がした。満月が綺麗な夜だった。だけど海の鮮やかな青さが分かるんだ。それから大きな月から銀色の粒子が降ってきて、俺はその光に包まれたんだ。その時、ここが白装束の男が言ってた”あの島”なんだと分かったんだ。目が覚めてからとにかくユタについて調べた。そうしたらある本が目についたんだ。」
「…奄美三少年、だろ?ごめんな、トモキの部屋にあったから勝手に見た。」
「そうか…。そう、その本だ。それを読んで確信したんだ。奄美大島に行けって言われたんだと。変な話に聞こえるかもしれないが、暗闇に居た自分の目の前に、ぼんやりとだが道が見えた気がしたんだ。」
【戦車 正位置】
「あ・・・
立ち話も何だから
そろそろ落ち着いて話せる場所に行かないか?」
とトモキが言った。
コージが予約したホテルはバスの終点の目の前だったので
すぐにチェックインを済ませてトモキの元に戻った。
なんとトモキは中古の軽自動車を購入していた。
「奄美は車があった方が便利なんだ。」
とはトモキ談。
その車で10分ほど移動した海に程近いウィークリーマンションが
現在のトモキの住まいだった。
建ってまだ2〜3年のキレイで住み心地良さそうな2DKの部屋だった。
テーブルの上にはノートパソコンが1つ。
あとは備え付けの家電があるだけ、の簡素な生活ぶりがみえる。
「まぁ、適当に座ってくれ」
トモキはそう言って小さな冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して
テーブルに座ったコージの前に置いた。
2人でお茶を飲みながら、しばし沈黙が続いたが
コージが先に口を開いた。
「トモキ、そう言えば・・・、お前
どうして俺が奄美大島に来ることがわかったんだ?」
誰にも話していなかったのにコージが奄美に来ることをなぜトモキが知っていたのか、バスの中からずっと気になっていた。
「それは、、、言っても信じてくれないかもしれない・・・
いや、信じてくれなくてもいい。
夢で見たんだ。
コージが、俺の部屋であの本見て
奄美大島に来ることを、、、。」
(おお、予知夢ってヤツか?)
とコージは色めきだった。
実は、オカルト的なことがコージは大好きだったのだ。
「へぇー!そうなのか?!
トモキが奄美大島にくるきっかけも
白い服を着た男の夢だったんだよな?
不思議なことがあるもんだな」
コージが興味津々でトモキを見ると
トモキは少し不快そうな表情を浮かべていた。
「確かに、、不思議なんだよ。
奄美大島にきてからというもの
予知夢のようなものばかり見るんだ・・・」
トモキの話では、奄美大島にきてから
飼い犬の脱走の夢を1件、交通事故の夢を2件、
海難事故の夢を1件、見たところ
それぞれが数日後に実際に起きたそうだ。
トモキは地元紙の記事を切り取って保存してあった。
そして最近は
助けを求める女性の夢を見るそうだ。
「え・・・?それって、もしかしたら
どこかで実際に助けを求めている女の人がいるかも知れないってこと?」
コージは身を乗り出した。
「まだわからないよ。
ハッキリと、女性の顔や、場所なんかが見えているわけじゃないんだ。
ぼんやりと、白いワンピースの女性が
助けて、、助けて、、と手を伸ばしてくるんだ」
トモキは両手で頭を抱えた。
「どうしてこんな夢を見るようになったのかわからないし
助けを求められても、何もできない。
一体なんなんだ!」
コージはスクっと立ち上がった。
「トモキ、これは、謎を解くしかないぞ!
なぜ、トモキがそんな夢を見るようになったのか?
トモキの夢の中に出てくる白装束の男性は誰なのか?
助けを求めてくる女性は本当にいるのか?
悩んででも何も解決しない。
2人で調べるぞ!」
項垂れたトモキの背中を
コージがバシッと叩いて気合いを入れた
「うわっ!痛ッ!
出た・・・コージの猪突猛進・・・」
トモキはヤレヤレという風に天を仰いだ
【正義 逆位置】
その夜は、近所のコンビニで弁当やらつまみ、酒など買ってきて
トモキの部屋で飲みながら
今後について話し合った。
「そう言えば、お前の両親、心配して警察にも相談してたぞ?
とりあえず、親には連絡しとけよ!」
コージに言われ、
トモキは渋々、その場で親に電話をした。
受話器の向こうから聞こえてくる
悲鳴!怒号!安堵!の声・・・
(だよなぁ〜・・・おじちゃんもおばちゃんも、心配してたからなぁ)
コージは
スマホを耳から離し
肩をすくめて親の話しを聞いているトモキを見ながらクスリと笑った。
と、トモキの表情が一変した。
「え?!そうなの?!初耳だけど!」
ビックリしたような顔をした後、トモキはウンウンとうなづきながら
何やらメモを取り出した。
「・・・わかった。見つかるかわかんないけど、取り敢えず行ってみるから。じゃあ」
そう言ってトモキは通話を終えた。
神妙な顔をしているトモキ。
「何?何かあった?」
ほろ酔いのコージが尋ねると、トモキは答えた。
「なんか・・・俺の先祖、奄美大島出身らしい・・・」
!!
「ッブーーーッ!!」
コージは口にしていた焼酎を吹き出した。
「ッゴホッ、ゴホッ・・・え?!そうなの?!」
トモキは、今、親から聞いたことを
コージに話した。
トモキの曽祖母は、なんと奄美大島の宇検村出身だそうだ。
そして、先祖のお墓があるので、お墓参りに行ってほしいとのことだった。
トモキは知らなかった。
曽祖母が奄美大島出身であること、
そして自分にも奄美大島の血が流れていること。
親もそれを、隠してはいなかったが
あえて教えようとはしていなかった。
「カーーっ!なんか、トモキお前、まさに導かれて奄美大島に来たって感じだな!」
コージは、今までにないドラマチックな展開に心が躍った。
結局、その日の夜
コージはトモキの部屋に泊まった。
トモキはまた夢を見た。
白いワンピースの女性が助けを求めている
(助けて・・・助けて・・・
あの人を・・・助けて・・・!!)
愛し合っていた2人
家の事情で無理やり引き裂かれた・・・
女性は別の男性に嫁がされ
男性は、殺害された・・・
背後から殴られ・・・どこかに埋められた・・・
・・・・!!!
夜中、目が覚めたトモキは
冷たい汗で体が濡れていた。
【世界 逆位置】
3日後
コージは東京に戻っていた。
有給を5日間しかとっていなかったし
トモキのひいお祖母ちゃんのお墓も無事に見つかって
お墓参りもすることができた。
あとは
トモキの夢に出てきた白いワンピースの女性探し・・・
これは、まぁ
実在の人物かどうかもわからないし
探しようが無い
という現実を突きつけられ、断念。
観光地を回ったり、郷土料理に舌鼓をうって
奄美大島を堪能して
帰ってきたというわけだ。
しかし
コージは、なんとなく腑に落ちないものを感じていた。
奄美大島でトモキの部屋に泊まった翌朝
トモキの様子が、何か妙だった。
顔色が悪かったし、いつもより口数も少なかった。
何かあったのか?
と尋ねたが、トモキは
いや、別に
と短く答えただけで
コージと視線を合わせることはなかった。
(あいつ・・・、何か俺に隠してるよな・・・?)
自分の部屋でコーヒーを啜りながら
コージは
掴みかけた【謎】の尻尾が
手のひらからするりと離れゆくのを感じていた。
【皇帝 正位置】
「父さん、、、奄美大島の血が流れてるって
どうして隠してたの?
母さんも知らなかったみたいだし」
トモキは父親と電話で話していた。
奄美大島に来てもう3ヶ月以上になる。
これ以上長くなるようだったら
いっそのこと、アパートでも借りようかと思い
保証人になって欲しくて父親に電話したのだ。
「・・・隠していた訳ではないんだよ。
話す機会も無かったし。
お前のひい祖母ちゃん、俺の祖母ちゃんにあたる人が
奄美大島の生まれだったわけだけど
俺が生まれる前に亡くなってて、会ったことは無い。
親の墓もこっちに建てたし、
あまり奄美大島に縁を感じなくてな・・・」
淡々と話すトモキの父親だったが
子どもの頃に一度だけ
先祖の墓参りをするために
奄美大島に来たことがあるらしかった。
「だからお墓の場所、覚えてたんだ!」
「そうだな、もう50年くらい前のことだから、ぼんやりとしか覚えてなかったよ。
お墓、見つかって良かった。
ありがとうな。
あ、アパートの保証人の件はわかった。
部屋決まったら早めに連絡してくれ。」
少しも名残惜しそうな気配なく電話を切られた。
音信不通だった頃の心配が嘘のようだ。
(まぁ、男親なんてそんなものだろう。
今頃、母親から
どうして電話を代わってくれなかったのかと
ガミガミ言われているかもな。)
そんな両親のことを想像してトモキはクスっと笑った。
なんだかんだで自由にさせてくれる親がありがたかった。
(さて・・・)
トモキは1冊のノートを取り出した。
妙な夢を見始めてからしばらくして
夢日記をつけることにしていた。
白いワンピースの女性
結婚の約束をしていた男女が別れさせられ
男性の方は殺害され埋められた
最初はぼんやりとしかわからなかったが
コージが泊まったあの夜に見た夢から
だんだんと鮮明になってきた。
白いワンピースだと思っていたが
そうじゃなく、白っぽい着物だった
時代はおそらく江戸末期から明治
女性は、奄美大島でも良家の生まれ
男性は、その家の家人(ヤンチュ)いわゆる奴隷、その奴隷の取りまとめ的存在
許されぬ恋
女性が薩摩の役人の目に留まり、島妻になることに
2人は駆け落ちするが見つかり、女性は無理やり連れ戻され
男性は・・・
ノートに書いたメモを読み返して
トモキはぼんやりと天井を見上げた
(・・・どうして俺がこんな夢を・・・。
もしかして・・・この2人のうち
どちらかが俺の先祖・・・?)
ふと、そんなことが頭をよぎった時、トモキは急激な眠気に襲われた・・・。
【愚者 正位置】
トモキはそのまま
気を失うかのように深い眠りに落ちた
気がつくと
辺りは真っ暗で、少し肌寒い
(・・・ここはどこだ?)
よく目を凝らすと
足元に、海に面した崖が見えた
(んんん?!俺、浮いているのか?)
トモキは自分が上空に浮いていることにビックリしたが
あぁ、これは夢なんだと気が付いてホッとした
(いつもの、あの夢なのか?
にしても、やけにリアルだな。)
これは、なんだかいつもと様子が違う
そう感じてゴクリと唾を飲み込んだ
その直後
崖に人影が現れた
若い男女
どうやら逢引きのようだ
微かに話し声が聞こえる・・・
「わたしは嫌・・・あなたがいるのに
役人の妻になるなんて!絶対に嫌!」
女は、男の胸に顔を埋めて泣いていた
「・・・俺だって、同じ気持ちです、、でも
どうしようもない・・・」
そう言って男は
女の小さな肩を強く抱きしめた
「・・・役人のものになるくらいなら
死んだほうがマシ・・・
あなたと結ばれないのなら、死んでネリヤカナヤで一緒になりたい!」
そう言って女も
男に強く抱きついた
トモキは、テレビドラマを見ているような感覚で、2人の様子を見ていた
女は長い髪を頭頂部に結い、小綺麗な着物を着ていたが
男は、髪を結ってはいるものの無精髭が生え、
着ている着物はお世辞にもキレイと言えるものでは無かった
どうやら立場に格差があるようだ
男は、女の肩にそっと手を置き
右手で優しく女の涙をぬぐった
「・・・死ぬなんて、言っちゃいけません
そんなことをしたら、ご両親が悲しみます」
男の方が歳上なのか、
冷静になだめようとしてるように見える
「そんな綺麗事なんか聞きたくない!
・・・どうにもならないって、本当はわたしもわかってる
わかってるけど・・・わかってるけど・・・」
そこまで言うと、女は声を詰まらせた
自分を優しく見つめる男の顔を見ると
とめどなく涙が溢れた
2人はしばらく抱き合っていた
風にざわめく木々
満天の星空と三日月
波打ち際は夜空の写鏡のように
青く幻想的に光っている
潮騒が一定のリズムで時を刻み
どれくらい経っただろうか
男が口を開いた
「・・・3日後の夜、旦那さまがお出かけになり、お屋敷が手薄になります
この時間に、この崖下に舟を用意します
2人で、島を出ましょう」
女はハッとした表情で、目を見開いて男の顔を見た
「・・・本当に・・・本当に?」
女は震える声で聞いた
「もちろんです」
男は女の目を見つめ返し、ニッコリと優しく微笑んだ
女は静かに頷いた
その顔は、安堵したような穏やかさと
男の決意を受けて覚悟を決めたような、凛とした表情になっていた
3日後の夜
女は、約束の時間に崖下の磯で待っていたが
いつまで待っても
男は来なかった
女は、男が裏切ったと思い込み
魂が抜けたようなままで
役人の島妻となった
役人は悪い人ではなかった
2人の子をなし、それなりに幸せに暮らした
実は男が殺されていたと知ったのは
もう晩年になってからだった
ある家人(ヤンチュ)の男が息を引き取る前に
泣きながら謝罪してきた
山で獲物を取っている最中に、旦那さまが命ずるままに、後ろから鍬で頭を殴って殺害し、埋めたと
女は泣き崩れた
心が引き裂かれるようだった
目が覚めるともう朝になっていた
トモキの頬も
涙で濡れていた。
【隠者 逆位置】
「・・・・っ」
トモキは起きあがろうとしたが
軽いめまいがして
起き上がることができなかった
枕が濡れている
(・・・夢をみている間にどんだけ泣いたんだ、俺)
やたらリアルな夢だったと
トモキはその内容を思い出してみた
夢の中の女の感情が
まるで自分のもののように
胸が締め付けられ苦しく悲しい
こんな夢は初めてだった
(いったいなんなんだ・・・)
仰向けで天井を眺めながら呟いた
(もし、本当に、この2人のうちどちらかが
俺の先祖で
仮に、何か言いたくて俺の夢に出てきてるのだとしたら
埋められた男を探してくれ
っていうことだろうなー・・・
でも、100年以上前っぽいし、無理だろ・・・)
そう思った時
カーテンがフワリと揺れた
窓を開けてもいないのに
「・・・ひッ」
思わず声が漏れる
ゆっくりと起き上がり
カーテンに背を向けないようテーブルへ近付き
スマホから電話をかけた
巻き込むまいと
夢のことは話さずに
東京に帰してしまったコージに
コージは有給の最終日を持て余していた
思いの外、早く目が覚め
部屋にいてもなんだからと
珍しく散歩に出かけた
いつも慌ただしく早足で歩く道も
ゆっくりと顔をあげて歩いてみれば
違った景色が広がっていた
美味しそうなドーナツ屋を見つけたので
ふらりと入ってみた
甘いドーナツの香りが食欲をそそる
朝食は食べたが、散歩の途中、公園で食べようと
2つほど購入した。
ドーナツの入った袋を持って、店を出た直後
トモキから電話がきた
(お?トモキだ・・何だろう)
「もしもし?コージだけど」
電話の向こうでトモキの安堵する雰囲気が伝わってくる。
「コージか?
繋がって良かった!」
2日ぶりに聞くトモキの声
心なしか元気が無さそうだ
「どうした?トモキ。何かあったのか?」
聞くと、
なんと、また直ぐに奄美に来て欲しい
とのこと。
驚き過ぎて思わずドーナツの入った袋を落とすところだった
「はぁ?俺、昨日帰ってきたばかりだぞ?
無理無理無理無理!」
何があったかは知らんけど、また奄美大島にとんぼ返りするのは無理!
明日からまた出勤だし・・・
トモキは、
どうにかコージを再度奄美に呼び
夢のことを打ち明け、2人で埋められた男を探せないか
と思ったが
やはり断られた
当たり障りなく奄美を観光させて
さっさと東京に帰してしまったのは俺だ
また奄美へ来てくれないか、なんて
身勝手な話し、断られて当然だ
トモキは、先の見えない細道を
1人で歩いてゆくことが
こんなにも心細いものだったのだと
初めて感じた
【隠者 正位置】
コージはモヤモヤしていた
どうにもトモキの様子がおかしかったからだ
(奄美大島から戻ったばかりの俺に
また直ぐ奄美大島に来てくれ、だなんて
普通のトモキなら、言わないよな・・・)
ドンッッ
「あっ!!すみません!!」
そんなことを考えながらボンヤリと歩いていたら
信号待ちをしていた男性にぶつかってしまった
その勢いで男性は手に持っていたコーヒーを胸元に溢してしまっていた
「本当にすみません!火傷しませんでしたか?!」
オロオロと慌てふためく俺を見て
男性はニコリと笑った
「大丈夫ですよ!火傷はしていません
でも、ちょうど今から人と会う約束があって・・・
帰宅する時間も無いし、困ったな」
そう言って苦笑いした男性の顔に
何となく見覚えがあった
(どこかで会ったことある人かな?)
思い出せないが
とにかく、何とかしなければ・・・
シャツを洗うか、、買うか・・・
スマホで検索すると、ちょうど歩いて5分ほどのところに紳士服のショップがあった
コージは遠慮する男性をほぼ無理やりショップへ連れて行き
同じような白いシャツをお詫びに購入した
男性は、試着室で着替えると
「正直言うと、とても助かったよ
ありがとう!」
とニコニコしてお礼を言ってくれた
「とんでもない!こちらこそボーッとしてて、、
すみませんでした」
コージは深々と頭を下げた
すると、
「お!君、そのドーナツ・・・」
男性は、コージが持っていたドーナツの袋を見て目を輝かせた
男性はそのドーナツ屋の近所に住んでいるらしく
開店当時からのファンだそうだ
「あの、もし良かったら、このドーナツもどうぞ!」
男性があまりにもそのドーナツの美味しさを語るものだから
コージは思わず差し出さずにはいられなかった
男性は いいの?! と言いながら
とても嬉しそうに微笑んだ
「これも何かのご縁だね!」
そういうと、男性は
ニコニコ笑って
コージの頭の上を数秒見つめた
「大丈夫。奄美大島には行けるよ」
と唐突に言われ、コージはビックリした
鳩が豆鉄砲を食ったよう とはこのことだろう
シャツとドーナツ、ありがとうー
そう言うと
男性は颯爽と去っていった
コージの頭の中は???でいっぱいだった
その男性と出会ってから別れるまで
30分経っていない
ましてや奄美大島の話しももちろんしていない
なぜ、あの男性は、コージが奄美大島に行く行かないでモヤモヤしていることを知っていたのか
新たなモヤモヤが生まれてしまった
不思議なことも
あるもんだな・・・
もう一度、あのドーナツ屋へ向かって歩き出した時
またスマホが鳴った
コージの上司からだった
「休みのところ申し訳ない!
急なんだけど、お前、明日から10日ほど
奄美大島に出張な!」
「え!
ええええええええーーー!!!??」
コージは
人目をはばからず声をあげて驚いた
【吊し人 逆位置】
「なぜ俺は
奄美大島でこんなことをする羽目になっているんだ!!」
トモキが思わず愚痴をこぼすのも無理はない
5時間ほど時を戻そう
あの、例の夢のことが
実際に起こったことだったのかを調べるために
トモキは
名瀬から車で約1時間の、先祖のお墓がある宇検村に来ていた
とりあえず
村内の歴史に詳しい方がいないか役場で尋ねてみると
漁港で「ヒデおじ」を探して尋ねてみるといい
と職員さんが教えてくれた
早速移動し
漁港で作業をしていた漁師さんに声をかけ
ヒデおじ さんに会いたい旨を伝えると
「ヒデおじ☆◇※%◎♫@◉、行けばわかる」
と言いながら漁港の端を指差した
方言のためほとんど聞き取れなかったが
指差した方向を見ると
船の上で作業をしている男性が見える
近くまで行き声をかけてみた
「お忙しいところすみません!ヒデおじ さんでしょうか?」
男性はチラッとトモキに目をやると
咥えていたタバコを携帯灰皿に捩じ込み
舟を降りてきた
「あんたか?ワン(俺)のことを探してるのは」
漁師らしく日焼けした顔
そこに刻み込まれた皺から70代と推測
年齢の割に高い身長とガッシリした体格に威圧感さえ感じた
「あ・・・はい!
昔の出来事について、教えていただきたいことがありまして」
トモキは、あの夢について
かい摘んでヒデおじと呼ばれている男性に話した
「昔、こんな出来事が、
実際にあったかどうか、なんて
わからないですよね・・・?」
どうせ夢だろと、バカにされることを覚悟していたが
意外にもヒデおじは
神妙な面持ちで聞いていた
「・・・あんたは、内地の人ね?」
「はい。俺は東京生まれですが、曽祖母がこの村の出身です。
先祖のお墓も宇検村にあります」
ヒデおじは
トモキの話を聞きながら
新しくタバコを取り出し火をつけた
ふー・・・
煙を吐き出すと
急に、これから漁に出るから一緒に船に乗れ
と言われ
腕を掴まれ、そのまま乗せられた
「え!・・・え!?」
うろたえるトモキに救命胴衣を着せると
ヒデおじはエンジンをかけ、船を沖に向けて走らせた
それから5時間ほど
ヒデおじの漁を手伝った
波は高くなかったが、慣れない船上に船酔いしかけながらも
機械が上げる網から魚を外し選別し、
漁港に戻ってからは汚れたデッキを洗った
(なぜ、漁を手伝う羽目にー・・・)
慣れない作業にグッタリしていると
ヒデおじが声をかけてきた
「よし、もういいぞ。
これからワン(俺)の家で風呂に入れ」
ヒデおじの家は
トモキの先祖のお墓がある集落にあったが
疲れきったトモキはそのことに気が付かない
ヒデおじの奥さんが笑顔で快く迎えてくれ
お風呂に案内してくれた
あー・・・
久しぶりの肉体労働のあとの湯船に
思わず吐息がもれる
(・・・ヒデおじさん、本当に何か知ってるのかな・・・
有力な話しとか、何も聞けなかったら無駄骨だよな、、ハハッ
実話かどうかもわかんねーのに)
お風呂から上がると
息子さんの服なのか、着替えも新しく用意され
トモキの服は洗濯されていた
「お風呂、ありがとうございました!」
リビングで声をかけると
テーブルには、ヒデおじの奥さんが腕を振るった島料理の数々が並んでいた
「おお!上がったか」
すでに一杯やりほろ酔いのヒデおじが
ここに座れと、隣の座布団を叩いている
そこに座ると
ヒデおじは急に真顔になった
「・・・本当に、来るとはな
驚いたよ・・・」
そう言ってグラスの水割りを飲み干すと
トモキの顔をじっと見た
【運命の輪 正位置】
「本当に来るとはな・・・
驚いたよ・・・」
ヒデおじの言葉を聞いて、トモキは皮肉を言っているのかな?思った
突然押しかけてきて迷惑だと思っているのかもしれない
「ひでオジさんがこの座布団に座れと言ったから来たんですけど・・・」
トモキは少しムッとした感情を隠して
少し冗談ぽくヒデおじに伝えた
ヒデおじは一瞬、なんのことだ?という表情になったが
トモキが勘違いしたと気がついて
直ぐに訂正した
「あぁ、違う違う!言い方が悪かった!
本当に 内地から、島に来るとは という意味じゃが」
そう言うとヒデおじは
グラスに入った黒糖焼酎の水割りをひと口
グイと飲んだ
ヒデおじは
こうやって内地から人が訪ねてくるのを
もう何十年も待っていたそうだ
「ワン(俺)も、若い頃から夢を見よった
最初は、若い男から助けを求められる夢
そしてだんだん、昼間、あんたが話してくれたような夢を見るようになっていった」
!!
トモキは息を呑んだ
役場の人から紹介された村内の歴史に詳しい人物ヒデおじが
自分と同じような夢を見ていたとは
思いもよらぬことだった
その夢をきっかけに
ヒデおじは村内の歴史に興味を持ち、村内の年寄りたちに聞き込みをし、記録していった
ある日、話を聞かせてもらおうと
村内のとある高齢のユタ神を訪ねたときに
こう言われたそうだ
「これから先、もしかすると・・・
数十年先かも知れん
内地から、ナン(あなた)と同じ夢を見る人が来る
その人と協力して、埋められた男を探し出せば
その夢は見なくなる」
と・・・・
「え!そうなんですか?
ヒデおじさんも同じ夢を・・・?!」
トモキは、妙な夢を見ていたのが自分だけじゃなかったことにホッとした
夢が、現実である可能性が高まった
【隠者 正位置】
「食べながら話そうか」
ヒデおじから勧められ
テーブルに並んだ島料理に舌鼓を打った
どれもこれも
ヒデおじの奥さんの愛情たっぷりで美味しい
「それで、埋められた場所は
どこか見当がつきそうなんでしょうか?」
トモキは核心に迫った
「ワン(俺)の見る夢は、殺された男側から見た場面だと思う
だから殺された場所は大体見当がつくんだが
埋められた場所までは、はっきりわからん」
そう言うと、ヒデおじは少し悔しそうな顔をした
「そうなんですね
俺の見る夢は、どちらかというと、
女性側の視点なんですよ・・・」
トモキとヒデおじは
目を見合わせ
深いため息をついた
コージは
自社製品の契約店へ視察で
再び奄美大島へ来ていた
トモキに会うために
巻いて巻いて
10日間の予定を5日間で終わらせた
取引先との最後の接待を終えてホテルの部屋に戻った時は
もうヘロヘロだった
部屋に入ると
スーツも脱がずにそのままベッドに倒れ込んだ
(トモキへは明日連絡すればいいか・・・)
少しだけ・・・
のつもりで目を閉じると
コージはそのまま深い眠りへ誘われた
山へ猪狩りに行く
旦那様が突然そうご所望され
ワン(俺)と、ネセ(青年)がお供することになった
罠を仕掛けるための道具とナタ、クワなどを持って集落の裏手の山へ3人で入った
山の中腹、よく猪が通る場所に罠を仕掛けることになった
いつもなら慣れてるワン(俺)が作るところだったが
この日は、若手に指導する意味もあって
ネセ(青年)に作らせてみることにした
「・・・そうそう、上手いが!」
そのネセ(青年)は筋が良かった
褒めると振り向いて嬉しそうに笑った
ネセ(青年)が罠作りに集中していると
突然
旦那様がクワでネセ(青年)の後頭部を殴りつけるように命じてきた
!!
「旦那様!!何を・・・!」
「た、たのむ、、、いいから、やるんだ」
ワン(俺)は逆らうことはならず、
命ぜられるままにクワを振り下ろしてしまった
ネセ(青年)は気を失ってその場に倒れ込んだ
後頭部から出血しているが、まだ息はあった
旦那様は、青ざめてブルブルと震え、涙を流していた
「す、すまん、、許してくれ!
娘を、お前にやるわけにはいかんのだ」
ワン(俺)は全てを悟った
旦那様にはキュラムン(美人)の娘さんがいた
薩摩の役人に島妻として嫁がせることが決まっていたが
娘さんには恋仲の男がいるらしかった
その男がこのネセ(青年)
「うう・・・」
ネセ(青年)は、目を開けて体を起こそうとした
「・・・すまん!」
ワン(俺)は、震える手で
泣きながらネセ(青年)の後頭部めがけてクワを振り下ろした
「・・・すまん!すまん!!!」
生き絶えたネセ(青年)の亡き骸を
その山の、大きな椎の木の根本に埋めた
「・・・ハッ!!」
コージは目が覚め、ふと時計を見ると
ホテルに戻ってからまだ1時間しか経っていなかった
(なんだ・・・今のリアルな夢は・・・)
クワを持った感触が
まだ手に残っているようで、苦しくて思わずシャツの胸元を握りしめた
(以前、トモキが、夢がどうのとか
言ってなかったか・・・
明日、朝一番でトモキに連絡しよう)
シャワーを浴びて体はスッキリとしたが
コージはなかなか寝付けなかった
【カップの5 正位置】
早朝
トモキはスマホの着信音で目が覚めた
手を伸ばしてスマホを見ると
まだ午前7時前
コージからだった
(こんな早い時間に・・・何だよ)
前の晩は
結局、ヒデおじの家でしこたま飲み
泊まらせてもらった
二日酔いで少々頭が痛い
不機嫌な声を隠さずに電話に出た
「・・・もしもし?」
「トモキ、ごめん、寝てたよな
起こして悪い」
心なしか
コージの声に元気がない
「何だよ・・・こんな早い時間に
俺、昨夜飲み過ぎて頭痛いんだよ・・・」
話しながら寝返りを打つと頭がガンガンする
(・・・こんなになるまで飲むんじゃ無かった)
そんなことを考えながら
コージの話しを聞いた
「実は俺、今、奄美の名瀬にいるんだ」
「・・・・えっ?」
全く想定外のことに、トモキは思わず上半身を起こした
頭痛と眠気は吹っ飛んだ
「コージ、今、奄美にいるの?!なんでまた?!
この間、来れないって言ってたばかりじゃん!」
「いや、急に出張が入ったんだよ!
それで・・・昨夜で仕事は終わらせたんだけど
トモキ、今日会えないか?」
そんな理由だけでコージが、
こんな早い時間に連絡してくるはずはない
幼馴染の勘が、他に何かある
と言っている
「コージ、何かあったのか?
俺、昨夜、宇検村に泊まったんだ
名瀬には午前中には戻れる」
トモキがそう言うとコージは
宇検村にいるなら、宇検村で会いたいと言う
それなら、と役場の前で待ち合わせることにした
午前9時
宇検村役場の前で久しぶりにトモキと再会した
トモキは昨夜、泊めてくれた地元のおじさんと意気投合してかなり飲んだらしく
気分は良くはなさそうだ
カフェにでも入りたいところだが
村には飲食店が1箇所しかない
しかも11時過ぎにしか開店しない
コージは自販機で缶コーヒーとスポーツドリンクを買い
スポドリをトモキに渡した
朝早く起こしてしまったお詫びだ
コージは乗ってきたレンタカーを役場の駐車場に停め
トモキの車の助手席に座った
そして
昨夜、コージが見た夢の一部始終を
トモキに打ち明けた
「トモキ、この間、お前も夢を見るって言ってたよな?
俺の夢も、なんか、すげーリアルで
怖いくらいだった」
トモキはコージの夢の話しを聞いて驚いた
昨夜、ヒデおじと夢の話しを共有し
夢の共通点を把握していた
コージが見た夢も、同じように共通点がある
(これは、ヒデおじさんにも相談した方が良さそうだ)
トモキはヒデおじに電話して
コージを連れて、ヒデおじの家に戻った
ヒデおじは
トモキの電話で今から来るトモキの幼馴染の話しを聞いて
今か今かと到着を待っていた
そしてトモキが連れてきた
あの、夢の中で殺された男の埋められた場所を知る者を!
やっと!やっとだ!
コージとトモキの2人は居間に通された
コージとヒデおじの自己紹介もそこそこに
3人は、それぞれ見た夢の話しを重ねて検証した
コージの見た夢を合わせると
ジグソーパズルのようにピタリとハマる
殺された男は、実在の人物のようだ
確信へと変わった
「・・・大きな椎の木の根本、か」
ヒデおじは心当たりがあるようで
どうだ、早速行ってみないか?と
2人に声をかけた
2人とも二つ返事で応じた
椎の木は、昔も今も
変わらずその場所に在った
コージが、夢の内容を思い出しながら
スコップでそれらしき場所を掘る
「夢の中では、
相当深く掘って、埋めたみたいだった」
中々の重労働
3人は交代しながら掘り進めた
30cmほど掘った時
手応えがあった
コージが注意深く土を払うと
服のような物が見えた
「・・・うっ!!!」
その時、
3人の意識が一斉に別の次元に飛ぶのを感じた
“すまない、すまない、ゆるしてくれ、ゆるしてくれ”
激しく泣きながら
男の遺体を埋めている
それは、主から男を殺すように命じられた
家人(ヤンチュ)の男だった
激しい後悔の念
“なぜワン(俺)は、殺してしまったんだ”
男の意識が流れ込んでくる
それは胸が張り裂けそうなほどの
深く強い後悔の念だった
【ワンドの3】
気がつくと3人は
椎の木の中に入っていた
椎の木の意識に繋がったと言った方が良いかも知れない
目の前で
横たわる男を家人(ヤンチュ)の男が
泣きながら穴を掘って埋めている
「許してくれ・・・、許してくれ・・・」
植物は
人の感情などを拾ってしまうらしく
椎の木を通して男の感情がストレートに伝わってきた
殺したくは無かった
だが恩のある主人に逆らうこともできなかった
それでも
もっと良い方法があったのでは無いか・・・
椎の木の意識の中で
3人はやるせない気持ちに包まれていた
当時の時代背景などを鑑みれば
家人(ヤンチュ)の男にとっては
どうにもならないことであった
椎の木の中で時が流れる・・・
その家人(ヤンチュ)の男は
毎年、男の命日には
この椎の木の元にやってきて祈りを捧げていた
好物の魚を供えたり
恋仲だった主の娘が
役人に嫁いだあとどうしているか、など
事細かく語って聞かせていた
「嫁いでしばらくは死人のような面持ちだったが
役人が良い人で
今は子どもも2人もうけて幸せそうにしているよ
お前が死んだなんて
これっぽっちも、思っちゃいねぇ
お前のいいひとのことは
ワン(俺)の命ある限り、見守っていくから」
数十年後、最後の力を振り絞り
家人(ヤンチュ)の男が杖をつきながらやってきた
「ワン(俺)が来れるのは
これが最後かもしれん・・・
お前のお墓を作ってやれなくて
本当にすまない・・・」
そう言って
椎の木の根本にひざまづき、泣いた
そしてしばらくして
何度も振り返りながら山を降りた
それから数日後
殺された男と恋仲だった女が
使用人の男2人と共に
椎の木の元にやってきた
おそらく件の男から聞いてきたのだろう
しかし
埋められた場所になんの印もなかったため
椎の木の周辺を闇雲に掘って
何も得られず肩を落として帰っていった
再び数十年の時が流れた
若かりし頃のヒデおじが
椎の木の側までやってきた
「おい!おいっ!!ここだ!この下に埋められているんだ!」
椎の木の中で
今のヒデおじが叫んだ
「・・・?!」
若いヒデおじは、その声が聞こえたのか
辺りをキョロキョロと見回したが
しばらくすると離れていってしまった
「・・・あの時の声は、ワン自身の声だったのか・・・」
コージとトモキはビックリした
「え?ヒデおじさんは、今の声を
若い頃に聞いたの?!」
トモキが尋ねた
「そうなんだ
夢を見始めてから間もない頃、この木の近くを歩いているときに
おい!おい!
と声が聞こえたけど、他に誰もいないもんだから
ケンムンかもしれんと思って
怖くなって直ぐにその場を離れたことがあった
まさか、、、自分の声だったとは・・・」
不思議大好きのコージは
ヒデおじの話しを聞いて興奮した
「こういうの、本当にあるんだ!
本や映画でしか見たこと無かった・・・」
それからまた時が流れたある夜
2人の男が椎の木の側に現れた
2人は何やら言い争っていたが
しばらくして揉み合いになり
1人が木の根に足を取られて転倒し
そのまま動かなくなった
残った男は、倒れた男の呼吸を確認し
息をしていないことがわかると
後退りし走り去ってしまった
数時間後、走り去った男が戻ってきた
手にはシャベルが握られており
倒れた男は
椎の木の根本に
埋められた・・・・
「・・・!!!」
3人は一斉に顔を見合わせた
(どういう事だ!最近、別の誰かが
亡くなって、埋められたのか?!)
そう思った途端、急に世界がぐるぐると周りだし意識が
元の体に戻った
コージが時計を見ると、椎の木の中にいた時間は
ほんの数分だったことがわかった
【月 逆位置】
3人はお互いに顔を見合わせた
今のは何だ?
夢だったのか?
全員がそう思っていることは
お互いの表情から安易に読み取れた
口火を切ったのはコージだった
「今の、、俺だけじゃないよな?
トモキもヒデおじさんも見たよな?」
2人は無言で頷いた
掘っていた場所から衣類が見える
100年以上前に埋められたにしては
衣類が残っているのは妙だ
「このまま掘るのはヤバいかもしれん
ワン(俺)が警察に連絡する」
ヒデおじがその場で警察に電話すると
地元の駐在所から警察官がやってきた
ヒデおじとは親しいらしく
事細かく事情を説明していた
「にわかには信じられない話しだが
島では不思議な話しは他にもいろいろ聞いたことがあるから
ウソとも思えないしな・・・」
そう言って
掘っていた穴から見えている衣類を確認すると
3人に、このまま触らないように、と伝え
宇検村を管轄する瀬戸内警察署へ連絡していた
「なんだか・・・大変なことになったな」
コージはそう言いつつも
何だか楽しそうだ
好奇心旺盛なのだ
「ばかやろ!人が殺されてるかも知れないんだぞ!
不謹慎なこと言うなよ!」
トモキはウンザリした顔でコージを叱った
「まぁまぁ、2人とも
ワン(俺)は2人のお陰で長年の謎が解けそうで
胸のつかえが取れた
さぁ、後のことは警察に任せて
ワンキャ(俺たち)はトンズラしよう」
?!
ヒデおじは面倒なことはキライなようだった
「でも、どうせ後からいろいろ事情聴取されるんじゃ・・・」
トモキは気になってヒデおじに尋ねると
心配するな!とヒデおじはニヤリと笑った
どうやら
先ほどの駐在さんはこう言った不思議な事件には慣れているようで
今回もうまく取りなしてくれるそうだ
詳しくは後日
ヒデおじが教えてくれるとのことで
コージとトモキは
取り敢えずそれぞれ名瀬の宿に戻り
泥のように眠った
3ヶ月後
あの後コージは東京に戻り
元の変わり映えの無・・穏やかな生活に戻った
本人曰く、モブはやっぱりモブらしく
だそうだ
トモキは宇検村に一軒家を借りて住んでいた
仕事は
知人に紹介してもらったゲーム会社にリモートで就職し
休みの日にはヒデおじの漁を手伝ったりしている
ヒデおじは
あの椎の木の出来事のあと
しばらくは警察署に呼ばれて事情聴取されたりと
忙しい日々だったが
現在は落ち着いている
気になるあの、掘った穴から見えていた衣類
地元警察の発表によると
死後3ヶ月から半年の男性のものだったらしい
検死によると死因は脳挫傷とのこと
埋めた容疑者はまだ見つかっていない
その後のことが気になって
コージがトモキに電話した時、ここだけの話しだから、と念を押し、こっそり教えてくれた
埋められた遺体の、さらに30〜40cm下から
白骨化した男性の遺体も見つかったらしい
それは死後100年前ほどの古いもので
地元の集合墓地に丁重に埋葬されたとのこと
トモキとヒデおじのホッとした顔が思い浮かぶ
休日のある日
コージは久しぶりに部屋の掃除をしながら
あの出来事を振り返っていた
今思うと
あの夢は一体なんだったのか
トモキは先祖が奄美大島出身
ヒデおじは地元で過去に起こった出来事
2人が何かの縁で夢を見ていたのはなんとなくわかる
俺はトモキに巻き込まれる形で夢を見たのか?
3ヶ月〜半年前に死んで埋められた遺体は
どこの誰なのか
あの白昼夢の中で一緒にいた人物は誰なのか
謎が全て解決したわけじゃ無いけど
取り敢えず
ひと段落と言うところなのか?
布団を干し、テーブルに散らかっていた雑誌や本を本棚へ戻していると
ふと、トモキの部屋から勝手に持ち出した
あの本が目に止まった
【奄美三少年 ユタへの道】
(今思えば、この本が奄美へ導いてくれたんだよなぁ)
そう思いながら何となくパラパラとめくると
裏表紙の袖に著者の顔写真が載っている
どこか見覚えが・・・
「あーーー!!!あの時の・・・」
2度目の奄美大島行きの前
ぶつかってコーヒーをこぼしてしまった男性
ドーナツを譲ったあの男性
『大丈夫。奄美大島には行けるよ』
と、ニコニコしながら言ってきて
俺は奄美大島のことを何も言っていないのに
何故わかったのか不思議だった
「わーーー!!これはトモキに連絡しないとー!」
その頃、
「奄美三少年、ユタへの道」の著者である円聖修は自宅近くの公園を散歩していた
大きな椎の木の下を通りがかったとき
木陰からひと組の男女がスッと滑るように現れて
頭を下げると
そのまま椎の木に重なるように消えてしまった
円聖修はしばらく椎の木を見つめていたが
「・・・ドーナツでも買って帰るかな」
嬉しそうにそう呟いて椎の木を後にした
完
長々と続きましたが
やっと完結しましたー!!
読んでいただきありがとうございました😆🙏✨
しっかり完結できましたでしょうか😆💦
なんか
小説を書く楽しさに目覚めました😆👍
ありがとうございました🙇🏻♀️✨
第一回目テーマは「すれ違いすぎる恋」参加生徒5名
🔴タロットリレー小説🔴
【カップの9 逆位置】
「付き合って、もうすぐ2年になるんだけど・・・
あいつ、結婚する気あるのかなぁ・・・」
そんな美奈子の愚痴を聞くのは
これでもう100回は軽く超えてると思う
美奈子は会社の同期で
入社した時から不思議と気が合い
プライベートでも親しくする間柄
美奈子は
合コンで知り合ったエリートサラリーマンと付き合い始めて
そろそろ2年になるらしいが
その彼氏の態度が煮え切らない、と
愚痴が止まらない
「えー?この間も2人で沖縄に旅行したんでしょ?
仲良いいんじゃないのー」
「それはそうなんだけどさー
もしかして沖縄でプロポーズされたりして?
とちょっと期待してたけど
ぜんぜんそんな素振り無かったしー」
と、愚痴というかノロケというか
結局は彼氏が好きという結論に至って終わるのが
ここ最近のデフォルトである
「ところで、アンコ、
あんたはまだ彼氏つくらないの?」
「ちょ、アンコって呼ぶのやめてってば!」
わたしの名前が 安子(やすこ)なので
親しい連中には
アンコと呼ばれている
嫌がるのをわかってて、面白がって言ってくる
「もったいないなー
アンコ、結構可愛いのに
誰か紹介しようか?」
「あー、はいはい
そういうの、いーからいーから!
はい、休憩おわりー」
美奈子、おまえはわたしの心配などしてる暇があれば
自分の彼氏と結婚する策略をもっと練ったほうがいい
軽くあしらうと
美奈子は はーい とつまらなさそうに返事をして自分の部署に戻っていった
去って行く後ろ姿も可愛らしい
ヒラヒラフワフワな女の子らしい雰囲気の美奈子が羨ましい
それに引き換え
わたしは身長170センチとガタイの良い宝塚男役タイプ
性格も男らしいときた
そういうワケで
彼氏いない歴28年であった。
【THE MOON 月 逆】
この業会に入れば男っぽい私も変わるかもしれない、
見た目もおしゃれに変わって
こんな私でも彼氏ができるかもしれない。
淡い期待を抱きつつ、
とある化粧品メーカーに入社してはや6年も経つ。
6年もいれば社割も使って
良い化粧品も買えるし、
見た目はそれなりに良い方になるように努力してきたつもりだけど
どうしてもこの男っぽい性格だけは中々変えられないものだ。
こういった場所に身を置いて時間も経つのに、
男っぽい性格が原因で彼氏が出来ないというのは
何か思い違いなんだろうなぁ。
「あんこはそのままのキャラがいいよ~、
変に路線変更したりしたら私が戸惑っちゃうからさぁ〜」
以前の美奈子との会話が
急に頭の中に湧き出てきた。
そうかぁ、私は私のままで良いんだよなぁ。
何故か納得出来た瞬間で、
同時に不思議な自信がみなぎってきた。
私の中の何かのスイッチを入れ直さないときっと出会いのチャンスも逃してしまうんだろうな。
安子の心に一筋の光が見えてきた瞬間である。
【恋人たち 逆位置】
昼休みは大抵、美奈子と2人ご飯
お互いにお弁当を持ち寄りシェアするのが楽しみの一つ
「おー!アンコ特製の唐揚げ
入ってる!
一個ちょうだい🎵」
「いいよ〜
じゃあ、わたし、美奈子特製
スペシャルポテサラ、ちょうだい!
美奈子のポテサラ、大好き💕」
2人とも料理は割と得意なのである
「お!今日も2人一緒なの〜?
仲良しだよね〜
僕にもちょうだ〜い」
ややオネエ口調で
背後から腕が伸びてきて
わたしの唐揚げをつまみあげたのは
これまた同期のトシロウ
男性ながら化粧品メーカーで
営業担当している
スタイリッシュで線の細い
今どきのイケメン
本当にオネエなのかは不明だが
男女ともに人気者
「あっ!トシロウ!
勝手に取らないでって
言ってるでしょー?!💢」
「何言ってんの!
味見してあげてんでしょ!
ありがたく思いなさ〜い」
じゃーねー
と、立ち去るスーツ姿も美しくて
女としてなんとなく負けてるようで悔しい
美奈子がトシロウの去って行く姿をチラッと横目でみながら
「あいつってさ、アンコのこと
絶対好きだよね」
と言ってきた
「えっっっ!?」
「だってさ、アンコ以外の社員に
こんな風にちょっかい出してるとこ
見たことないよ
今、確信したよ、間違いない」
恋愛マスター美奈子の目が光る
「やめてよ!美奈子
トシロウは仲のいい同期だけど
恋愛の対象として意識したこと無いし
それに
わたし、憧れの人、いるし」
「安東課長でしょー?
確かにカッコ良くて人柄もいいし
アンコが好きになるのもわかるけど・・・
わたしは、トシロウとアンコ
お似合いだと思うけどなー」
美奈子はそう言うけど、、ね
その日の夕方
急に、お得意先の接待をすることになったから
わたしに同席して欲しいと
トシロウから連絡があった
商品の開発にわたしも携わり、先方には大変お世話になった
「ありがとうございます!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!」
扉が閉まるタクシーの前で
トシロウと2人で深々と頭を下げた
「うまくいったな!
ありがとう〜、アンコのおかげよぉ〜」
肩に手を回してグリグリとハグをしてくるトシロウ
酔うといつもこうだ
人たらしなのである
「ちょ!やめてよ!」
「好きだよ、アンコ」
耳元でそう聞こえて
思わずトシロウの腕を払った
いつも軽い感じのトシロウと違う
わたしを見つめる瞳に真剣な眼差しを感じて思わず顔が赤くなった
「ずっと好きだった
アンコ、俺たち、付き合わないか?」
「え・・・え・・・
無、無理、、無理ーーー!!」
突然の告白にビックリして
わたしはトシロウを1人残して駅に駆け出した
トシロウは嫌いじゃ無い
嫌いじゃないけどーーーー!!!
明日から会社でどういう顔をして会えばいいんだろう
そんなことを考えながら
布団を頭からかぶって
とりあえず、寝た
【ワンド4】
朝起きて見ると昨日のことが脳裏に蘇ってきた。
顔を洗ってはトシロウとの
昨日のことを思い出しては顔が赤くなり、
コーヒーを飲みながらもトシロウみたいなイケメンが私を好きだったなんて、
しかもトシロウはオネエじゃないの!?
オヌエってやっぱり軽いの?
トシロウ本気で私のこと好きって言ったのかしら?
ただ遊ばれてるだけ?
いつもと変わらない日常のはずなのに
気持ちの変化がありすぎて
日常についていけない。
職場に着くとトシロウとたまたまエレベーターで居合わせた。
二人っきり。
10階のオフィスまでが長いようで短いように感じられる。
トシロウが先に口を開いた。
「私達って付き合ってるのよね。
それで昨日たまたま私の親からLINEが来たんだけど〜亅
えっっまだ付き合うとか返事的ななことは言ってないはずなのに!
話が発展しちゃってるよ!
えっっどうしよう。
またもやアンコの気持ちは揺れに揺れ動いた。
「今週末うちの両親が地方から東京に観光で出てくるらしいんだけど、
アンコ一緒にお花見でもしないかしら?
うちの両親クセはあるかもしれないけど
アンコと絶対に相性いいと思うし、きっと楽しい時間になると思うわぁ〜。
とりあえず考えておいてね〜。」
そう言ってトシロウは軽やかにエレベーターから降りて自分のデスクの方に向かっていった。
【カップ4 逆位置】
「はぁ。。。」
箸でタコさんウインナーを持ち上げたまま、不意にため息をついていた。
それにすぐ美奈子は反応して
「なになになにー。
ついにアンコが恋の悩み??
この美奈子様が相談に乗ってあげるよー。」
と軽いノリでつついてくる。
相談するべきか…
いやいや無理でしょ。恥ずかしい…。
モジモジしていると
「どうせ、トシロウに告られちゃったんでしょ。
トシロウの気持ちを知らないのはアンコあなただけよ。」
美奈子があまりにも的確に言い当てるものだから、
私は黙り込んでしまった…。
「さぁ、アンコは何に対して悩んでるの?
話したら気が楽になるわよ。」
…
実はトシロウに告白された事。
返事をしていないのに、付き合ってるって事になっているという事。
あろうことか、今週末上京してくるトシロウのご両親と花見をしないかと言われている事をため息混じりに伝えた。
「へぇ。トシロウやるじゃーん。
アンコ、何が不満なの?
それだけアンコを大切に思ってるって事よ。
なーんにも思ってない人を、わざわざ上京してくるご両親に会わしたりしないわよ。
ちゃんと想われてるって証拠じゃん。」
そうなのかぁ。。
そんなものなのか???
今まで恋愛経験のない私はさっぱり分からない。
「じゃあさ、2人でディナーでも行ってみたら?
そしたらトシロウの気持ちをちゃんと確認出来るんじゃない?さ。仕事に戻ろ。」
席に戻りながら、
美奈子の言葉を頭の中で思い浮かべていた。
仕事終わり、ふと入口に目を向けると、
トシロウがこちらを見て手を挙げた。
「ご飯行こぉ~お腹ペコペコなのよぉ~」
「パスタなら付き合う!」
そう言って、即決した。
結局、いつも通りのトシロウじゃない。
ちゃんと言いたいこと言ってやるんだから!
そう心に決め、行きつけのイタリアンに向かった。
到着すると、席に案内される。
さぁ、何を食べようとメニューを見入っていた。
「あ。これにしよう♪」
私が頼んだのはイカスミのパスタ。
「アンコはさ、そういう所がいいよ
ね。
俺さ、ずっとアピールしてきたつもり。
だけど、肝心のアンコは俺を男として見てくれないもんな。
あ。俺本気だから。」
イカスミパスタを食べながら、私は開いた口が塞がらない…
本気だったんだ…
イカスミの付いた口元をポカンとさせながら私はトシロウの気持ちを改めて知った。
【力 正位置】
(ヤバい
トシロウのやつ、本気なんだ)
物腰こそ
一見柔らかくオネエみたいだけど
実のところ
割と漢気のあるヤツなのは知っている
トシロウの上司である営業課長が
部下の手柄を平気で自分のものにして
部長や専務に媚びるヤツだった
見かねたトシロウが営業課全員から署名を集め
営業部長と人事部、そして専務に課長の異動を直談判した
それは認められて、課長は左遷
今は新しい課長の元、
営業課はイキイキと仕事に専念できる環境らしい
トシロウとは
そんな男なのである
「ちょっと、アンコ、聞いてる?!」
トシロウの声にハッと我にかえる
そうだ、、トシロウに
イカスミパスタを食べる
そういうところも良いよね
と言われてから
不覚にもボーッとしてしまった
わたしの頭の中で
「男と食事にするのに口が真っ黒になるイカスミパスタを気にせず食べるような気さくなところも好きだ」
と変換され、しかも
好きだ のところがリフレインされ
どうにも動悸が止まらない
同期で、気の合う、仕事仲間のトシロウ
動悸と同期をかけてるわけしゃないのよ!
頭の中でいろいろ考え過ぎて
ぼんやりしてるだけ!
「えーっと、なんだっけ?!」
「ほらな、やっぱりちゃんと聞いて無かった!
俺の両親、来週の土曜日に上京してくるんだ
アンコ、確か空いてるって言ってたよな?」
「え!あ、あぁ、うん
空いてるけど
でも、その前にさ
私たち、付き合ってるわけじゃないでしょ?
なんか、強引に付き合ってることにされちゃったけど・・・さ」
トシロウは
胸をグサっと矢で射抜かれたような顔をした
「かなり強引だったのは謝る!
でも、そうでもしないと
アンコは俺の気持ちに気が付かなかっただろ・・・」
そうだ
アンコは鈍いのだ
俺がわざとオネエっぽくしてるのも
アンコに警戒されることなく近づくため!
いつか俺のことを好きにさせようと
あの手この手でアプローチしてるのに
美奈子嬢の話では
アンコは商品開発課の安東課長が気になってるらしいではないか!
アンコのやつ
自分では気が付いて無いかも知れないけど
スラっとしてスタイルも良く
飾らない思いやりのある性格が
結構、男に人気があるのだ
そこで俺は
なりふり構わず、俺の家族も巻き込んで
アンコを落とす計画を立てた
周りから固めていって
確実に、嫁に貰う!!!
が、、、
そのアンコから
痛いところを突かれたなぁ
トシロウの言う通り
わたしは鈍い・・・
ハッキリ言われるまで
トシロウの気持ちに気が付かなかった
トシロウのことは嫌いじゃない
むしろ、、、、
ふとトシロウと目が合うと
ニコッと微笑んで
「まぁ、そんな鈍いところも
俺は好きなんだけどね」
と言ってきた
わーーーーーー!!!
頭から火が出そう
照れる
なんだこのデレは!!!
結局
顔のいいトシロウの甘い言葉にほだされて
まぁ、仮に付き合うことになり
トシロウの家族とご対面、となった
「あらーーー!
あなたが安子さん?!
トシロウから聞いてますー!
お会いできて嬉しいですー!」
ご家族が宿泊されてるホテルのロビーで待ち合わせしてたところ
エレベーターから降りてわたしを見つけると
ダッシュで駆け寄ってきて握手してくれたこの方が
トシロウのお母さん、ミツコさん
「噂通りの美人さんじゃないか!
でかした、トシロウ!」
その後ろから悠々と歩いてきた高身長の紳士がお父さん
それから
「おおー!あなたがトシ坊の彼女?!
よろしくー!」
と髪色が赤い派手な女性が
お姉さん
「ちょ、ちょっと!
みんな落ち着いて・・・
アンコ・・・安子がビックリしてるから!」
そう言ってトシロウがスッと前に立って盾になってくれた
普段は意識しないけれど
広くて大きな背中
ヤバい
いろんな意味でドキドキしてきた
トシロウのくせに!
ドキドキさせないで!
【☼太陽 ☼逆位置】
安子はトシロウの背中から男らしさを感じて
しまって桜どころではない状況になっていた。
しかし公園にシートを敷いて花見なんてすごく久しぶり…
「トシロウが上京するときっていったら寂しいのと不安でねー。
この子ちょっと変わった性格してるでしょ〜。
でもねー。気もきくし、責任感も強い所もあるし、
意外と男らしい所もあるしで付き合って損はないはずよー。」
気さくなトシロウ母は持ち寄ったお惣菜を頬張りながら久しぶりに会ったトシロウの話を語り始めてたのであった。
「そうそう、コイツ男のくせに昔から美に対する意識は高くて、
姉の私はいつもスキンケアのこととか説教されてたのよ〜。
まぁそのおかげもあってかこの美貌が保ててるんだから
トシロウには感謝しないとね~。
ちなみに私のこの髪色は3週間に一度は染めてるのっ
自分の好きな髪色で染めてると気分が保てるよねっっ」
「姉さんの髪色明るい赤色が姉さんっぽいよ。今までの色で一番似合ってるんじゃない?」
確かにトシロウのお姉さんは年齢不詳の美しさがあるし、パワー溢れるお姉さんの性格には赤がピッタリなかんじ。
それぞれが持ち寄ったおにぎりやサンドイッチなどを頬張りながら
の時間は会話も弾み、有意義な時間となった。
「アイテテ…。社交ダンスのレッスンで痛めた腰に来てるな…。
地面に座っていられるのもそろそろ限界かもしれん。」
トシロウのお父さんは高身長でスタイル抜群、紳士的な雰囲気であったが
社交ダンスをしているのはやはり頷ける。
ある程度の充実した時間も過ごせたし、トシロウのお父さんの腰のこともあって、そろそろお開きということになった。
「とても楽しい時間でしたーー。
安子さん、来てくれてありがとうございましたーー!!」
「アンコには俺の家族に会ってもらいたかったから、
忙しい中予定合わせてくれてホントありがと〜!
一年に一度のお花見を俺の家族と過ごしてくれてめちゃくちゃ嬉しかった!!」
トシロウは人目を気にせず安子にハグを出来るタイプだ。
トシロウの突然のハグに安子は目を開けたまま、返事すら出来ないでいた。
「ちょっと、アンコ、大丈夫?
そんなに飲んで無さそうだったけどお酒まわっちゃた?家まで送ろうか?」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。一人で帰れる!
私こそトシロウのご家族と会えて楽しかった!また明日ね〜。」
トシロウのちょっとした気遣いがドキッとする。
トシロウ一家は気さくな方たちばかりでとても楽しい時間を過ごせたのだが、
安子の心には何処か引っかかる部分があった。
この気さくな感じが逆に重荷になるような感覚。
私、無理している気がする。
流れでトシロウと付き合うみたいな流れになったけどやっぱり何か違うかも…
トシロウにはドキッとさせられた。
今後もしかしたらトシロウを好きになるかもしれない。
だけど、
だけど…
この選択はいまの私には違ったのかもかもしれない。
その想いが花見の時間を過ごすことで安子の中でより強まった瞬間であった。
【ペンタクル 4 正位置】
「ハクション……」
手に持った体温計を見て、ため息も出た。
トシロウ家族との花見の後、
私は高熱を出して休んでいた。
風邪を引いたのだと思いたいけど、
自分の中でキャパオーバーになったってのが正解なのかもしれない。
どうやってトシロウに伝えたらいいのか、
安子の中で分からなくなっていた。
「ダメだ。頭がぼーっとして分からないや。しっかり寝ないと💦」
ピンポーン
…
せっかく寝てたのに、どうせ勧誘だろうから
無視無視!!
なのに、またピンポーン
と鳴ったうちのインターフォン…
モニターを見ると、
ト…トシロウだ。
「はい…」
と対応しちゃうバカな私…
「あ。オレ開けてくれる?すぐ帰るから」
あぁ、私パジャマだし、スッピンだし、
なんならチョンマゲしちゃってる。
ヤバ。。。
慌てても直ぐに到着しちゃうエレベーターのせいで、
あっという間にピンポーンと鳴っちゃう。
仕方ない…直ぐに帰ると言ったしと思いドアを開けた。
……
「大丈夫なのか?熱出て休んでるって聞いて早退してきたんだ。」
そう俺は声をかけた。
目の前のアンコは顔が真っ赤で、しんどさが伝わり、本当に心配になった。
「うん。すぐに治ると思うんだけどね」
力なく応えるアンコが不憫でならない。
本当は泊まり込んで看病したい。
けれど、それはきっと断られるだろう…。
「コレ。何も食べれていないだろうから、テキトーに買ってきた。」
と言って、手渡す。
「ありがとう」と話すアンコを早く寝かせてやらないと、と思い
「じゃ。俺は帰るから。ちゃんと水分摂って寝てな。鍵は直ぐに閉めるんだよ。」
そう言って、そっとドアを閉めた。
あぁぁぁぁぁぁぁぁ。
心配過ぎて帰りたくない。
後ろ髪引かれながらエレベーターに乗った。
…
トシロウが帰って行った。
アレ?本当にすぐ帰った。
渡された買い物袋の中には
ゼリーや経口補水液、熱冷まシート、お粥…
びっくりする程の量が入っている。
何故かぬり絵のノートが入っていて、
クスッと笑ってしまった。
ありがたく頂いて、
しっかり治そう!!
心が優しさに包まれて、グッスリと眠れた。
【ペンタクルの7 正位置】
「おはよー!」
「!!アンコ!!
あんた大丈夫?!」
出勤すると
美奈子や同僚たちに囲まれた
丈夫なことが自慢のわたしが寝込んだってんで
みんな心配してくれてたらしい
「ありがとうー
もう熱も下がったし、大丈夫よ!
休んだ分、しっかり仕事するね」
安心してもらおうと
ニッコリ笑ってガッツポーズ!
美奈子がポンと肩に手を置いて
「まぁ、無理はするでないぞ」
と耳元で囁いた
「で、、トシロウとはどうなった」
(え?)
不意にトシロウの名前を出され、顔がボッと赤くなるのが自分でもわかった
どうやら
寝込んでいることをトシロウに教えたのは美奈子らしかった
「ま、素直になれ」
そう言ってニヤリと笑いながら美奈子は席に戻って行った
同じフロアの少し離れたエリアがトシロウのいる営業課だ
たくさんの声や雑音の中から
ふと耳に届く声
トシロウの声だけを耳が拾ってしまう
ふと視線をその方向に向けると
トシロウが慌ただしく動き回っている
上司や同僚とのやりとり
取引先への連絡
時折り見せる楽しげな笑い顔
いつもわたしに絡んでくる軽い雰囲気とはまた違って
真剣でイキイキとした働きぶりが伝わってくる
トシロウ・・・
お見舞いに来てくれた時の
トシロウの顔が思い浮かぶ
わたし・・・
わたしも、トシロウが
大切なんだ・・・・
やっと気がついた・・・
【ペンタクル10 逆位置】
やっぱりトシロウのことを考えると胸がドキドキする…
やっぱりこれが恋愛感情ってものなのかな…?
安子の胸にふわっとした火が灯るような温かさがあった。
その火のゆらぎの感覚と共に、
突然自分磨きをしたいといった意識が
安子の心に芽生えて来たのである。
トシロウはスラッとしてスタイリッシュで品もあってやっぱおしゃれだよな〜
釣り合うように頑張らなくっちゃ!
仕事から帰宅するやいなや、クローゼットのある部屋に直進していく安子。
キョロキョロ…。
私ってろくなお出掛け着持ってないのかも…
大体は白と黒のモノトーンコーデとか、
パンツとかばっかしか持ってないし、、
もしかしてこれって可愛らしさのかけらもないのかも~
やっぱ花柄のワンピースとか、女性らしいコーデのがトシロウも喜ぶかもしれないもんね!
翌日デパートに出かけて「テーマ女性らしさ」ということでデートに着ていけそうなコーディネートを全身分購入したのである。
その後人生初のネイルにも挑戦!
「自分の手がきらきら輝いてみえる…✨
世の女性達はこうやって楽しんでるんだな~
」
有名な美容室にも行き、パーマもかけてもらった。
「髪ふわふわ動いてかわいい!
いつもがいかに手入れしてないってことだよね」
見た目を整えるのには結構お金がかかるものである。
その翌日、トシロウと出掛ける約束をしていたので早速購入した
花柄のワンピースコーデを披露したのである。
「アンコオフの日に会ってくれて嬉しい〜。
今日はいつもと随分雰囲気違うな。
髪も巻いてるの??
ふわふわしてるね。
かわいいけど毛先傷んでないか?
あれっっ!
ネイルもしてる!この淡い水色がアンコの肌に似合ってるよ。
でもなんでこのスイカの柄にしたの?
アンコ面白い趣味してるんだな。」
「ネックレスも大ぶりなハイビスカスすごいな。」
「私もなんだか自分じゃないみたいでまだ慣れないんだよね〜。
でも喜んで貰えてめちゃくちゃ嬉しい!」
「でもこんな変わって結構お金使わせちゃっだだろ?
何か俺の為に申し訳ないなあ…。」
アンコは見た目的には男性が喜びそうなコーディネートで揃えたつもりではあったが、
似合ってないのかセンスが悪いのか分からないけど
その日トシロウとはなんだか距離がある感じだった。
「私なんか違っちゃった…?」
自宅にてスイカ柄のネイルをまじまじとベットの上で見つめながら
アンコはトシロウのギクシャクしていた意味が良く分からず良く眠れない夜になったのであった。
【ワンドの7】正位置
「はぁ〜・・・」
無意識に出るため息
「ちょっとアンコ・・・
あんた今日どうしたの?
朝からため息ばっかり
チームの士気、上がったりだよ!」
みかねて美奈子が声をかけてきた
「み、美奈子ぉ〜」
美奈子の顔をみると
思わず涙が出そうになり、泣きついてしまった
その日の仕事終わり
美奈子を部屋に招いて家飲みすることになった
落ち込んでた理由は昼休みのランチで話し済み
部屋に入るなり
かけてあった花柄のワンピースやハイビスカスのネックレスを見た美奈子が
まるで雨に濡れた野良犬を見るような
目でわたしを見てきた
「ちょ!そんな目で見ないでよ〜」
とりあえず、テイクアウトしてきた料理とビールを楽しみながら
センスのかたまり、美奈子から
いろいろご指導いただいた
やっぱり伊達にモテてないな、美奈子は
「背伸びしなくていいんだって!
トシロウは、あんたの素直で素朴で真っ直ぐなところに惹かれてるんだと思うよ」
美奈子に背中を押されて
次の休みに
またトシロウと会う約束をした
リベンジだ!!
駅の改札口で待ち合わせ
時間より少し早めに出かけたのに
トシロウはもう先に待っていた
スラっとしてスタイルの良いトシロウ
シンプルでスタイリッシュな格好だ
わたしは・・・
今日は、美奈子のアドバイスどおり
背伸びをせずに
いつものシンプルな服を選んできた
「今日のシンプルな雰囲気も良いね」
トシロウがニコッと微笑んでくれた
「・・・この間は
トシロウに釣り合うようにって
ちょっと背伸びし過ぎたのよね〜
トシロウ、今日はお願いがあるの!
わたしの服選びに付き合って!」
「喜んで!そういうことなら任せて
アンコに似合う服を選んであげる」
最初から背伸びせず
トシロウに選んでもらえば良かったんだ
トシロウおすすめののショップを周り
なんと全身コーディネートを
5パターン
トシロウが買ってくれた
それは流石に甘え過ぎ!
と、遠慮したのに
それが俺の楽しみだし、嬉しいから
ぜひプレゼントさせて
と懇願され、承諾してしまった
買ってもらった服に着替えると
まるで普段のわたしとは違う
品の良さを感じた
さすがトシロウ・・・
「どう?
やっぱりアンコの良さを
アンコよりも1番わかってるのは俺だから」
そんな言葉をトシロウから投げかけられ
思わず真っ赤になるわたし
「ちょっと!何それー!
でも・・・
嬉しい
本当にありがとう」
「どういたしまして」
そう言って笑うトシロウの目が
本当に優しかった
【コイン2 逆位置】
今日は仕事終わりにトシロウとデート!
仕事も早く切り上げて
駅の近くでの待ち合わせにもぎりぎり間に合った!
仕事終わりで疲れていたのもあって
ぼ〜っと待っていたら改札の方からひときわ目立つ美男美女が歩いてくるではないか。
あの子もパーマかけてるのかな。
ほぼ今の私と同じ髪型だけどあの子の方が断然似合うな。
やっぱりかわいい子だと同じパーマでも違って見える。
「たまたま方面もご一緒出来て
美容の知識も沢山のいただけて
モチベーション上がりました!
またよろしくお願いいたします〜!!」
美女の方がそう言うと隣に居るのはなんとトシロウではないか!
ぼ〜っとしてて全然気づかなかった。
やばい、完全にオフの顔してたっ
普通のモードに戻さないと!
「沢山聞いて下さったので教え甲斐がありました!
またよろしくお願いいたします〜!」
そう言うとトシロウは私の所まで近づいて来たが
まだもうひとりの美女はまだ帰ろうとはしなかった。
「彼女は同じ社内の同期で最近付き合い始めたんだよね。」
美女が帰らないのでトシロウが不自然な紹介をしてくれた。
美女は私を上から下まで何かを確認するかのごとく
じろりと見てきたのだが
なんだかチクチクとした視線が痛かった。。
「…そうですか〜!
彼女さんですね!
金子さん(トシロウの名字)はうちの社員にも大人気なので次の講習も楽しみにしてます〜
今後ともよろしくお願いいたします〜!」
そう言うと美女はその場から立ち去って行った。
不穏な空気に包まれた私とトシロウ。
「いや〜。今日は取引先で講習があってさ〜。
講座終了後に彼女とたまたま帰りの方向が一緒で
駅まで帰って来たんだよ。」
「ついて来られたんじゃなくて?
何か彼女トシロウに気がある感じだったよね〜。
私のこと上から下までじろっと見てきたし、何か気になるなぁ。」
「アンコ、気にし過ぎだよ。
なんでそんなに不安になってるのかが俺には謎っ!
それより今日は何か食べに行く〜?♪」
「こんなときこそイカスミパスタが食べたいかも…!」
「イカスミパスタいいね!
アンコのあの食べっぷりが俺は好きなんだ!
今日も仕事大変だっただろー?
美味しく食べれそうだなっ」
アンコはトシロウと穏やかな時間を過ごせていたはずだった気持ちの中に
トシロウと取引先の謎の美女の構図が頭から何故か離れなくて
不安な気持ちが波のように押し寄せてくる安子なのであった。
【節制 正位置】
あんなに暑かった真夏の日々が、
少しずつ朝晩涼しさを感じられるようになってきてた。
トシロウとの交際も順調で、
職場でのアイコンタクトも手馴れたもの。
後輩たちの黄色い声援も
最近はサラッと流せる余裕さえ出てきた。
そんなことより、私は食欲の秋が近づいてきた事が
今は何よりの楽しみでしかない。
「あー何から食べようか♡」
いつも気を抜くとコレ。
サツマイモと栗には目がないのだ。
特集されてる雑誌には付箋だらけ。
週末が楽しみでしかない。
今週末なんて、トシロウが
今年限定のマロンケーキを予約してくれている。
なんていい男なんだ!!トシロウ!!
諦めていたケーキを予約してくれて、
2人で半年記念のお祝いをしよう❤︎って可愛いこと言ってくれて。
トシロウから大切に想われているのを実感出来る、幸せな日々を過ごせている。
まだ誰にも話してないんだけれど、
最近、2人で将来についても話題になることがあるんだ。
ちゃんとトシロウの中で、
私が将来横にいるって考えてるんだと思うと
顔の筋肉が緩んでしまうの。
誰かーーーーー!!
私はこんなに幸せでいいのーーーー???
【節制 逆位置】
週末にトシロウと食べたマロンケーキ美味しかったな〜♡
SNSでバズってるのも頷ける、うん♡次はやっぱ芋だよね〜♪
インスタのスイーツコレクションをスクロールしながらニヤニヤしてると、トシロウからの着信が鳴った
いつもLINEなのに、どうしたんだろう?
ふと、不安がよぎる
電話に出ると、トシロウには珍しく慌ててる様子が伝わってくる
「アンコ、聞いて!
驚かないでよ
俺、ニューヨークに行くことになった!
任期は2年、しかも出発は1週間後・・・」
「えっ、トシロウ何それ、どういうこと???」
突然過ぎて、何が何だかさっぱりわからない
要約すると、会社が米国進出することになり、その責任者にトシロウが抜擢されたのだ
それは目出度いことだけれども、でもね・・任期は2年って・・
1週間で引越し準備やら、仕事の引き継ぎやら、全部終わらせないとヤバいってことで、暫くは会えないってことだった
そんな、、この間まで2人の将来の話してたよね?
いきなり2年のニューヨーク出張なんて、ありえなくない??
しかも、そんな大事なことなのに、私にひと言の相談もなくニューヨーク行きを決めるなんて、マジありえない!!
トシロウの大躍進を素直には喜べないアンコだった
【カップのキング 正位置】
トシロウがニューヨークに発ってから早一ヶ月程が過ぎた。
そもそもトシロウの米国進出抜擢から一週間で出発しなければならずで、あまりにも慌ただしい毎日に2人は翻弄されるがまま遠距離関係となった。
トシロウが出発の日はアンコも空港まで見送りに行ったが、何の相談もなくニューヨーク行きを決めたトシロウへの腹立ちは燻ったまま。トシロウもアンコの半ば拒絶にも似た雰囲気を察してか、何と声をかけて良いか分からずじまいで、気の利いたことも言えないままだった。
1ヶ月も経てばさすがにアンコも腹を据えて、美味しいものをたらふく食べて心を落ち着かせることが出来た。
幸い、ちょくちょく連絡は向こうからくれる。
「会社に決められたことなのだから、トシロウも大変なのだ」と自分に言い聞かせて、電話やメールでは元の様に明るく他愛無い話をするように勤めていた。
寂しさは消えないけど…。
そんなアンコがまったりお家で秋の味覚探し(ネットサーフィン)しているある日のこと。
「ピンポーン!宅急便でーす!」
と、誰かがドアを鳴らす。
何だろう、何か頼んだっけ?とドアを開けると…
「と、と、トシロウ?!!」
何故かニューヨークにいるはずのその人が立っていたのだ。驚き過ぎて変顔になってしまうアンコ。
「えっ何で?!連絡なかったよね?!!あれ??!」
「ごめんねアンコ!びっくりさせてばっかりで!どうしても、どうしても会いたくて、休暇を利用して帰って来たんだ。またすぐに戻らなけりゃだけど…。ニューヨークに行って忙しくしててもずっと君が頭から離れないんだ。君は電話で楽しそうに話してくれるから、もしかしたら俺が居なくても大丈夫なのかと思うと…うわぁ、ごめん、すごいヘタレだ!💦」
感情的になっている様子のトシロウだったが、一息ついて落ち着いてから再び話し出した。
「あっちに行ってすぐに気づいたよ、やっぱり隣にアンコが居てくれないとダメみたいなんだ。どうか僕と一緒に来て欲しい。もちろん今此処で返事をくれなくても良いよ。でも、、結婚を前提に、一緒に居て欲しい。」
少し不安そうに、でもキッパリとアンコの目を見てトシロウは言った。
アンコは怒涛の展開に言葉が出てこなかったが、トシロウの真っ直ぐな目を見て、自分の心が何か温かいもので満たされていくのを感じていた。
「あ、あとこれ。お土産」
はい、と言いながらトシロウが手渡してきた英語のパッケージの美味しそうなニューヨークチーズケーキに、思わず吹き出してしまうアンコだった。
【ソード8 正位置】
アンコは冷静に自分の置かれた状況を振り返ってみた。
今まで私の歴史の中で彼っていう存在は無かった人生の中で
私の心の中に現れた温かな存在、トシロウ。
はじめは暗闇の中にポツンと一本のロウソクの炎のように
光るくらいの微かなものだったけれど、
次第に線香花火のようにパチパチと燃えて行き、
少しずつ大きな炎になり、温かさになってきていたのだった。
いつも明るく、ときにはオネエのように色々な表情で楽しませてくれる存在トシロウ。
ふと気がついてみると私の心の支えになっていたのだった。
こんなに与えてくれるトシロウに私は
答えられているのだろうか。
アンコはまっすぐ自分を見つめてくれるトシロウから目をそらしてしまうのであった。
せっかくトシロウがお土産に持って来てくれたのだからニューヨークチーズケーキを食べようと頬張る瞬間に、
何故か感極まって涙が出てきてしまったのだった。
「アンコ、どうした?!
さっきまで笑ってくれてたのに!
チーズケーキ、もしかして口に合わなかった?大丈夫??」
「だって、だって…。
こんなにトシロウが私を想ってくれているのに全然期待に答えられていないんじゃないかとか、
漠然とした不安が急に襲ってきて…。
そもそも恋愛もはじめてな訳で…。」
「ゴホゴホ…。」
アンコの喉にチーズケーキが詰まってなかなか咳が止まらないし、
しかも涙も止まらないのであった。
「とりあえず落ち着いてそのチーズケーキを頑張って飲み込んで。話はそれからだよ…。」
【ペンタクルの1 逆位置】
泣きながらチームケーキを食べてむせるわたしに
トシロウは
「ちょっと勝手にキッチン借りるね」
と言って
お湯を沸かしてコーヒーを淹れてくれた
「これ飲んで、落ち着いて」
優しいトシロウの声が
今はなんだか
胸に刺さる
背中をさすってくれる大きな手が温かい
「アンコ大丈夫?!
急な話しだったもんね・・・
アンコの気持ちも考えずに
先走ってゴメン・・・
でも、俺、本気だから!
結婚のこと、ニューヨークへ行くこと
直ぐにじゃなくてもいい
返事、待ってるから
今夜は
帰りなく無いけどとりあえず帰るね」
そう言ってわたしをギュッと抱きしめてキスをしてから
トシロウは滞在先のホテルに帰って行った
それから
5年が経った
わたしは出世して
課長になった
あの後、有給を使って
2週間ほどニューヨークに行き
トシロウと一緒に過ごした
もちろん
結婚を前提にして
でも
気が付いたら
一緒にいると
お互いいつも仕事の話しばかり
そしてそれが
お互いにとても楽しくて満たされていると感じた
恋人であると同時に
仕事の同期で仲間で
ライバルでもある
恋人、を意識すると
わたしが、わたしで居られなくなるような
そんな感覚もあった
仕事という絆で結ばれていた方が
自然なわたしでいられた
お互い、それに気がつくのに
2週間あれば十分だった
日本に戻る時、空港で
見送りに来たトシロウと
しっかりと抱き合った
恋人としてではなく
かけがえの無い仕事のパートナーとして
今でもトシロウは
ニューヨークでバリバリと仕事をしている
中性的で感性豊かなトシロウは
ニューヨークの水が肌に合っているようだった
「課長、明日からまたニューヨークに出張ですね」
部下が声をかけてきた
「ええ、そうなの
またトシロウと会えると思うと楽しみだわ」
「・・・なんだか妬けるな」
7歳年下のイケメン部下
何やら呟いた
「え?何か言った?」
「いえ!何でもありません
明日、空港まで送りますから」
歳下の部下が耳まで真っ赤に染めていることにも気が付かず
アンコは呑気に答えた
「助かるー!よろしくね!」
アンコは
こういう女である
これで
良いのだ
これが、アンコなのだ
END
タロットリレー小説 最終話
ハッピーエンドでは無かったですけど
最後盛大にすれ違って終わりました😆✨
ありがとうございました🙇🏻♀️✨